香水で起こそう!




ビルの中に入れば、エレベーターに登って夢を見ている人たちの階へと階段で向かう。


というのも、ここのビルにいた大半が寝てしまったため、まともに機能していないのだとか。


ざっと数えて50名。

サキュバスによる夢を見ている人たちが眠っている階で、さっそく香水を使おうとしたその時。


突然緊急アラートが鳴り、3人して特に何もない天井を見上げる。



「なんですか突然………今、あの部屋には誰もいないはずですよね?」


「……あの部屋って何だ。」

「このビルの管制室です。普段は長官がいるんですが、ここ数日見当たらなく、て……」



と言いかけて、霧雨さんは階段入口の方を見た。


そこには若い少女らしき隊服を着た女の子が仁王立ちで立っていて、ジトーッと霧雨さんを見た後ボクたちを見る。



「遅い遅い遅い遅いっ!!おっそーーいっ!!」



ずんずん早歩きで霧雨さんの方へと向かってきた少女は、そう叫びながらがしっと彼女の肩を掴む。


目をぱちくりと瞬きさせながら少し驚いていると、口を開いたのはアサだった。



「推理刑事……お前、ここの所属だったのか?」


「ふふん、とばりちゃんよくぞ聞いてくれたっ!僕は謎を解くことに関しては人並みの遥かを超えた超!天才!だからね!本当は色々なところからオファーが来ていたんだけど、ここの長官の切実なお願いで僕は一時的にここに所属したってワケ。」


「んえぇっ?そこの女の子ってアサの知り合いなの…?」

「昔馴染みの腐れ縁だ。」


「なるほど、交友関係広いんだね……?」



アサが一体どんな交友関係をしているのか不思議でならない。


チラッと推理刑事と呼ばれた彼女を見てみれば、本当に刑事をしているのかと疑うレベルで幼かった。

というより童顔だった。


それは、彼女が二人を相手にして表情豊かに話しているから、というのもあるが、こんな状況でも明るい彼女の雰囲気を見て、なんとなく彼女は自信に満ち溢れているんだなと理解した。


そうしてじっとこっちを見つめられると少し視線を逸らしたくなるのが人間と性なのだが、彼女はどちらかといえばボクがじっと彼女を観察していたように、彼女もまたボクを観察しているような感じがした。



「それで、このアラートのことだけど、これは僕がわざと鳴らした。みんな全く起きる気配ないからね、緊急事態のアラートが鳴れば起きてくれるかと思ったけど……事態は結構深いところまで行っているみたいだ。」


「あ、それでなんだが、よあ……同居人から香水をもらった。夢を見ないようにする匂いの香水らしい。」


「んーー!!君の同居人は相変わらずすっごいね!いつも痒いところに手が届く!そして僕の直感もいつも以上に冴えてるっ!それで、君たちはこの香水をどうするつもり?まさか一人一人つけて行く気?それじゃあ時間が足りないよ。」



それはそうかもしれない。

じゃあどうするのかをボクが問いかけようとして、被せるように「君ならどうする?」と問いかけられる。


ボクならどうする?


なんでボクに聞いたのか疑問に思ったが、少し頭を使って匂いに関連するものを思い浮かべて行く。


香水?スプレー?それとも石鹸?いやいや、どれも違う。香水はともかく実用的じゃないしここにはない。匂い、嫌がるような臭い……



「……んえっと。お線香、蚊取り線香みたいなのがあればいいな…と思いました。」


「うんうん、いい線行ってるんじゃないかな?でも惜しいっ!ここには蚊取り線香はないからね!だから、香水をどう利用するか、が肝。というわけでジャジャーン!」



そう言って彼女が取り出したのは、小型の加湿器だった。

どうやら香水を加湿器に入れてばら撒く、ということらしい。


アサからもらった瓶の中の香水を加湿器の中に入れ、空調のいい扇風機の近くに置くことに。


それにしてもなんで彼女はあんなに準備が良かったのだろう、と疑問に思った。



「お?その顔はなんで僕が、君たちが香水を持ってくると知っていたか疑問な顔だね!その答えは僕の体質だよ。」


「体質?というと、特異体質のことですか?」


「そう!ズバリ、僕の特異体質は超直感!直感の元に行動して、最高のアンサーを得るっ!でも別に僕は自分の体質だけを頼りにしている訳じゃないよ?僕は限りなく推理することに特化した超!天才!だからね!超直感なんてなくても普通の事件だったらちゃちゃっと解決しちゃうからっ!」



なるほど……直感型の特異体質に天才的推理力を持つとなると、それは確かに超天才と呼べるかもしれない、と納得した。


しかしそれにしても、なんだか下の階の音がうるさい。


その音にはアサも霧雨さんも気付いていたみたいで、音のする階段入り口を見つめる。



「微かに聞こえる先輩……の足音と、他にも数名、いや数十名の足音が聞こえてきます。どうしますか?」


「味方か?敵か?それよりもここにはまだ夢から覚めない奴らがいる。50人近くもな。」


「まあ、連絡もなしに数十人もの武装した足音が聞こえるのは明らかに敵だよねっ!」


「ててててっ、敵!?なんで警察のビルに敵が!?」



そんな疑問に答える暇もなく、階段の扉が開いた。

そこに現れたのは、武器を持った黒マスクの奴らで、開いた扉目掛けてアサは突っ走って行った。



「チッ!ゆっくり雑談している場合じゃない、さっさと蹴散らすぞ!!」



アサはそう言って武装した敵数名に重い一撃を与え、倒れたのを確認したが、敵はまだまだ湧いてくる。


しかし同時に、推理刑事はひゅうっと唇を鳴らし、霧雨さんはパチパチと拍手をしていた。



「さすがは人類最強候補、お見事です。……では私も、彼女に続いて地獄から湧いてきた天使どもを捌きましょうか。」



そう言って彼女は、階段の扉を抜けて行き、窓から屋上まで飛んで階段のある建物の部分をぶった斬った。



「あーあ、減給待ったなしだよ、アレ。まあ事態が事態だからね、多少免除されるだろうけど!



……って、」

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