償いのエンブレム

ソノハナルーナ(お休み中)

第1話 路地裏の老婆

この先、未来があるのだろうか。

ぼくの手のひらには真っ赤な血が濁る。

ぼくは罪を覆った。

誰かの罪ではなくぼく自身の罪だ。

歩く道とは反対方向に警察、救急車が向かうサイレンの音がする。

ぼくは罪を犯した。

重大な罪だ。一生かかっても償えそうにない。

いっそ消えたい。

そう思った時に路地から声が聞こえた。

『その罪、償いたいかい?』

声の主はまるで老婆のようにしゃがれた声をしていた。暗闇から出てきたのは、背の低い女性だった。

ぼくは、逃げようとした。

すると、その老婆は僕に言った。

『この先も逃げるのかい? それとも隠すことでなかったことにするのかい?』

ぼくは、老婆の声に耳を傾けて、立ち止まり言った。

『じゃあ、どうすればいいんですか。僕は人を殺めたわけではない。ただ、僕でもやれるんだって分かって欲しかっただけなんだ。死なせるつもりなんてなかった。僕はただ理解してもらいたかった』

2人は呼吸を合わせるように言った。

『『だから、刺した』』

ぼくは、怖くなり後ずさりしたら、老婆が路地へと引き寄せた。

そして、唇を震わせるように『シー』と言った。

大通りの道から声がした。

警察が多数、行き交っていた。

それを見て老婆言った。

『もう、時間があまりない。罪を償いたいか、それとも捕まりたいかい?』

ぼくは少し間をおいた後に、言った。

『罪を償いたいです』

老婆はその言葉を待っていたように、僕を路地裏の闇の中へと強引に引っ張った。

気がついた時、僕は事件の起こる前の学校の教室にいた。

僕の机には真新しい包丁と古びたノートが置いてあった。

机には『お前は自分自身を救いたいなら、包丁を選べ。周りをそしてお前自身の未来を守りたいならノートを選べ。さあ、お前は何を守り、何を償いたい』

ぼくは、もう一度やり直せることができるのであれば、残酷な未来より償える未来を選びたかった。

だから、ノートを選んだ。

その未来に間違いはなかった。

包丁は消えて、周りには見えないが老婆が言った。

『good luck!』

気づいたら、路地裏で複数人の警察官に囲まれていた。

ぼくが起きると警察官は言った。

『実はこの辺でね、高校生が倒れてるっておばあちゃんっぽい声の人から、電話があったんだよ。今は物騒でしょ。今さっきも高校生が刺殺されたんだよ。怖い世の中だよね。君もこんなところで寝てたら、大変だよ。あれ、その手の血どうしたの。もしかして怪我しちゃった。大丈夫?』

ぼくは気が動転して、警察官に言った。

『あの、刺殺されたって、その誰が刺したんですか?』

『あー、それは言えない。ごめんねー。ここにいてもあれだから、ひとまず手当だけしよっか』

ぼくは何が起こったのかさえ状況が読み込めなかった。

だって、ぼくは同級生を刺してしまったはずなのに、それさえなかったことになっている。やはり、あの老婆が今を変えてくれたのだろうか。

ぼくは僕の罪を選択することで償うことができたのだろうか。

あの老婆は一体誰だったのだろう。

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