隠れ姉妹のダイエット
はくすや
またもダイエット
「それでまたダイエットしてるわけ?」
「しばらく体重を測っていなかった。ヤバイと思ったら2キロと少し増えていた」
「食欲の秋だものね」
そういう
「団子を食べすぎたのも良くなかった。どうやらこの体は長年染み付いた粗食生活のせいで栄養に飢えているようだ。少し食べただけですぐに身につく」
その時、たまたま二人がいた渡り廊下を生徒会役員たちが通りかかった。
その中に
「同じ遺伝子でも体質が違うこともあるのかなあ……」
わざと
「ああ、むかつく」
その横を生徒会役員たちが通りすぎる。
含み笑いをしていると桂羅は思った。――後で戦争だ。
生徒会役員たちの背中を見送り、また二人になる。
「ほんとうに意地悪ね」桂羅は舞桜にジト目を向けた。
「ごめんごめん、つい面白くて」舞桜が桂羅の頭を撫でた。「可愛いヤツ」
「面白がり過ぎよ」
桂羅と泉月が同じ日に生まれた姉妹だということは公表されていない。桂羅は養子に入り名字も異なる。
顔だけが瓜二つなのだ。桂羅がショートボブ、泉月が腰近くまであるロングヘアという違いはあるが。
この二人の関係はごく一部の者だけが知っている。
特別秘密にしているわけではないがいちいち説明するのも面倒なので複雑な家庭事情は明かしていない。
「泉月は毎日四時に起きてストレッチとジョギング。その後シャワーを浴びて朝食の用意をするわ」
「凄いわね、さすが『S組』のトップ。桂羅も
「泉月が夕食の用意できないからよ」
「生徒会で遅くまで残っているからね。それで桂羅も朝のジョギングするのかな?」
「まさか泉月と一緒に走るわけにもいかない。だからジムに通っている」
「お金かけてるじゃん」
「最近サボっていた。また始める」
そして夕刻のジム。桂羅はバイクを漕いでいた。
しばらくやっていないから太ももに乳酸がたまるのが早い。すでにパンパンに張っている感覚だ。
隣から何とも切ない喘ぎが聞こえる。
「あ、はーん……もうダメ……」
刺激が強すぎだろ!
少し離れたところにいる中年サラリーマンまでこちらを見ているよ。
もう一人同じ日に生まれた姉が汗を
「どうしてダイエットする気になったのよ?」
漕ぎながら
「『私は体格を気にしない。好きなだけ食べる』って言ってたのに」
胸が揺れている。ワンカップの差だと思っていたのにツーカップくらいに広がったみたいだ。
「そ、それがね……」いちいちアハーンとか声が出る。
「ちょっと休憩しようか」桂羅は提案した。
「う、ふーん、……がんばる」って、なかなか喋れないじゃん!
他人を欺くキャラを作っているうちにそれが楓胡のデフォルトになったのだと桂羅は思った。一見して三枚目。しかし本当の楓胡がどういうキャラなのか桂羅にもわからない。
「文化祭で劇をすることになったのよ」
休憩してどうにか息が落ち着いてきたようだ。
「二年E組は演劇にしたんだったね」
桂羅のC組は大正喫茶だった。
「私も出るように言われたのよ、学級委員さんに」
「それは目が高いな。楓胡の異才に気づくなんて」
「ラブコメなんだけど生徒会長の役なのよ」
「げ! それって」
「何を求められているかわかるよね?」
楓胡が垂れていた目尻を吊り上げた。それはまさに泉月の目。次期生徒会長の出来上がりだ。
このシナリオを描いた黒幕は楓胡に泉月をディスる役をさせたいらしい。泉月は無意識に敵を作っているからなと桂羅は思った。しかし今のままでは……。
「顔はまあ大丈夫よ。私も
「泉月より――」
「――4キロはあるわね」
「がぴょーん!」桂羅よりさらに上がいた。
「胸をワンサイズ落とさないと」
「あ、それ泉月が切れるヤツ」
「しばらくは甘いものもお預けね」
二人は顔を見合わせて笑った。
果たして、思った通りにダイエットできるのか?
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登場人物
隠れ姉妹のダイエット はくすや @hakusuya
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