珈琲1杯目 (3)告白

「最初のうちはお互いの魔術学院の授業の中身とか話してたんだけど、そのうち個人的なことも話すようになってさ。エルター君の故郷は港町で、船に興味があるって言ったら、ベルも自分の父上が海軍の船造技術者だった関係で海とか船にも興味があるって分かって、あとは完全に意気投合って感じになって……」

 リュライア様の忍耐が限界に達する前に、わたくしは静かに進み出て、リュライア様のカップに珈琲のお代わりを注ぎました。リュライア様は、救われたように珈琲の芳香を味わい、クラウ様のお話が終わるまで、この黒い液体の助けを得ることとされたようです。

「……で、エルター君は子供の頃、造船所で造ってる大きな軍艦の骨組みを見ながら育ったわけ。知ってる? 大きな船って、オーク材だけじゃなくって、モミとかマツとか、いろんな木材を使うんだってさ。で、材木の種類ごとに造船所の端に積み上げて乾燥させてる光景とか、すごい迫力だって言ってた。って、ベルが言ってたの。すごく幸せそうにね」

 リュライア様とわたくしは再び視線を交わしましたが、リュライア様はあきらめたように目を伏せ、珈琲を堪能されることに集中されました。その間も、クラウ様の「説明」は続きます。

「夕方になると、よく近所の子供たちと船の船尾から船首まで、船の竜骨に沿って夕日に向かって駆けっこしたりもしたんだけど、一度も負けたことが無かったってさ。魔法使いを目指すにしては足が速いと思ってたけど、それなら納得……」

「そのエルター君がいかに好青年で、ベル嬢の心を鷲掴みにしたことはよく分かった。だから頼む、そろそろいい加減に本題に入ってもらえないかな?」

 ついにリュライア様の忍耐が限界に達されましたが、クラウ様はとくに悪びれる様子もなく、それならとあっさり話題を転じられます。

「ってな感じで、ベルとエルター君の仲は単なる顔見知りから友人になって、そしてとうとう先週、僕と付き合ってくれないかって告白されたんだって! 初めて会った丘の上で!」


 クラウ様に至らぬところがあるとすれば、ご自分のお話に夢中になられると、目の前の相手が死んだ魚のような目をしていたとしても、まったくお気づきにならないことかと存じます。こうした恋愛話も、同年代の乙女なら黄色い嘆声を発して続きをせがむものかと思いますが、あいにくとリュライア様はそうした趣味は持ち合わせておられません。我が主人が凍てつくような視線を浴びせたにもかかわらず、クラウ様は半ば夢見心地で続けました。

「もちろん、ベルはお付き合いに同意したよ。ただ、交際してることは学園内はもちろん、お互いの家族にも秘密にするって条件が付いたんだ」

「まだ交際には早い、ということでしょうか?」

 わたくしがお尋ねいたしますと、クラウ様はにっこり笑ってうなずかれました。「そう。特にベルのお父様は、可愛い愛娘に悪い虫がつかないかすごく心配してるみたいなの。十日に一度は手紙を送ってくるほど娘のことを気にしてるけど、年頃の娘を持つ父親ってそういうものじゃないの?」

 わたくしは曖昧な笑顔で応えてから、本題にお引き戻しいたました。

「手紙と言えば、取り返すお手紙というのは?」

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