第16話 戦慄
「いや~楽しかったな~」
ゲームセンターから出た彼女は体を伸ばしながらそう言った。
気が付けば太陽は西に沈もうとしている時間帯になっていた。
こんな時間になるまで俺たちはゲームセンターで遊びまくっていたようだ。
レーシングゲームして、プリクラ撮って、クレーンゲームをした。他にも音ゲーもたくさんして遊びまくった。ゲームセンターにあるものをほぼ一通り遊んだら時間もかかるよな。
そしてこんな時間になった。
結果として一日中雨宮さんと一緒にいて、遊んだことになる。
こんな予定じゃなかったのに。
今頃は買ったラノベを読み終わり、余韻に浸りながら二週目を読み始めている予定だった。それなのに街中で雨宮さんとお茶して、遊んで、まだ街にいるなんて。
本当に想定外だよ。
「今日は付き合ってくれてありがとうね」
「いえ……」
できることなら早く帰って買った本を読みたかった。
でも思いのほか楽しかった。
ところどころで死ぬかと思ったけど、思い返してみれば楽しいことの方が多かった。
一緒にゲームをすることも、プリクラを撮ることもこれまでなかった。
女の子と遊ぶのってこんな感じなのかな。
世の中の男子たちはこんな楽しいことを休みのたびにしているのはなんでだろうかと思ったことがあったが今なら少しその理由がわかる。
単純に楽しいから。それだけのこと。
それを自分自身が経験することができるなんて。
何より雨宮さんが楽しそうだったのがよかった。
俺と一緒にいて面白くないと思われる方が俺にとってはかなり辛い。怒らせるようなことをしたり、ハラスメント的なことにもならず、雨宮さんが楽しいと思ってもらえたことで俺は何一つ害を被らなくて済んだ。
「有馬君は楽しかった?」
「一応楽しかったですよ」
「よかった」
「よかった?」
「私的には連れまわしたって感じだったから。有馬君楽しくなかったかもって不安になったの」
「そんなことないですよ。楽しいかったです」
連れまわされ、振り回されたことは否定しがたい。
でも楽しかった。雨宮さんも楽しそうだった。
今回はそれでよしとする。
「よかった。また遊ぼうね」
「そ、そうですね」
死にかけるのはごめんだから次からは雨宮さんに見つからないようにするつもりだから次はないんですがね。
「そろそろ帰りましょうか」
「そうだね」
「あれ?寧々じゃん」
雨宮さんを呼ぶ声が聞こえた。
その声のする方を見る。
戦慄した
雨宮さんに声をかけてきた人たち。その人たちを見て俺は戦慄した。
今日一番全身がぞっとした。
今日何度もぞっとすることはあったがその比じゃない。何度も死ぬかもしれないと思ったが、頭が本能として危険であると告げることがなかったのに、それが今告げられている。
あまりの恐怖に全身がひどく硬直する。
筋肉が固まっているのがわかる。全く動かない。自分の意志通り動かない。それなのにその人たちと距離をとろうとして勝手に足が動いて後ずさりをする。
原因は明確だ。
雨宮さんに声をかけてきた女の人たち。この人たちが原因だ。
彼女たちは中学時代俺をいじめてきた女子生徒たちだ。
何人もいじめてきた人はいたが、その中でも主犯的な人たち。
斎藤桃花、青山若葉、笹川佐代子だ。
髪型や髪色は全然違うし、化粧もしているから別人のようにも見えるが覚えている。しっかりと覚えている。記憶に、そして心に刻み込まれている。
彼女たちが俺に与えてきた恐怖心。それにより望まず俺の体に彼女たちのことが刻まれてしまっている。その恐怖心がすぐに彼女たちを認識した。
だからすぐにわかったんだ。
「やっほ~」
「こんなところで会うなんて奇遇じゃん」
「そうだね。奇遇~」
俺の事情なんて当然知らない雨宮さんは普通に彼女たちと話す。
彼女たちは俺より一個上だ。それなのに雨宮さんはため口で話している。
俺は距離をとってなるべく彼女たちに認識されないようにする。
「何してんの?」
「ちょっと遊びに来てたんだ」
「へぇ~……………」
彼女たちは雨宮さんの近くにいた俺に気づいたらしい。
「あ、もしかしてデートとか?」
「男と一緒にいてデートに決まってるじゃん」
「う~ん。それだったらよかったんだけどね……………」
「え~デートじゃないんだ」
「絶対デートでしょ。みりゃあわかるって」
「隠さないでいいじゃんよ」
「残念だけど本当にデートじゃないんだよ。まあ、私個人はデートだと思ってるんだけど」
「じゃあデートじゃん!」
「それはもうデートだよ」
「自分がデートだって思ってたらそれはもうデートだよ」
「でも彼氏じゃないんでしょ?」
「今は、なんだけど」
「それじゃあこれからその可能性あるって話なんだ」
「いつでもウェルカムって感じ~」
「かっこいいよねイケメンだし」
「確かに。なんかガタイもよさそうだし」
「しかもチョーおしゃれじゃん。服のセンスやばっ!」
虫唾が走る。
今まで彼女たちは俺に対して「キモい」「近寄るな「死ね」と言った言葉しか言ってこなかった。それなのに今の彼女たちの口からは「かっこいい」と言った俺を賛辞する言葉しか出てこない。
それがたまらなく不快だ。
ざまあみろとか、復讐をしたいなんて感情はまったくない。
とにかく不快でしかない。
「同じ学校なの?」
「うん。同じ学校で同じクラス」
「じゃあ勉強もできるってことじゃん」
「学年首席さんだよ」
「マジスパダリじゃんかよ」
「マジでかっこよすぎじゃん」
「まあね」
「流石寧々。あんたの周りに男はみんなカッコいいわ」
「他の人と彼は比べ物にならないよ」
「確かに。勉強できた人っていなかったもんね」
「その言い方だと私に彼氏がいたみたいな言いぶりになるから辞めてよ。私彼氏いたことないんだから」
「でも男に困ったことないでしょ」
「そりゃあないけど」
「大抵の男子は必ず一度寧々のことを好きになるもんね」
「そうそう。寧々は天性の男たらしだよね」
「だからその言い方辞めてって。ただ男の子に好かれてるだけだよ」
「それがたらしっていうのよ」
会話が盛り上がっている。
「有馬君?」
「はい………なんですか………………」
「顔白いけど大丈夫?」
体調不調を理由にこの場から立ち去ることができる。
このままここに居たら正体がバレてしまいかねない。もし正体がバレるようなことになってしまったら俺の過去が雨宮さんにもバレ、それによってたくさんの人に俺の過去が知られてしまうことになる。
そうなれば俺がこれまで頑張ってきたことが全部水の泡になる。
「なんか息も荒いし、苦しそうだよ…………」
実際、呼吸がかなり荒くなっている。胸がストレスで締め付けられるような感覚もある。
「雨宮さん、すみません。なんか体調が悪くなってしまったみたいなので先に帰りますね」
「送っていくよ。心配だもん」
「大丈夫です。これぐらいなら帰れますから」
「そう思えないほど顔色悪いよ」
「本当に大丈夫ですから。それじゃあ」
そう告げて俺はすぐにその場から逃げるように立ち去った。
中学の時女子からいじめられた俺、いじめられないように自分磨きで爆モテするようになったが女性恐怖症なので死にそうな件 珈琲カップ @kakipi1835
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