エピローグ
姉の相手を探そうとしたのは、自分の為だった。
姉が家を出た後の事を考えると――父がわたしに対してどんな要求をするのかを考えると――姉にはずっと家にいて欲しかった。
姉の幸せを考えていなかった訳じゃない。
だけどそれより自分の事が大事だった。
だからどうしても相手を探して姉を説得して欲しかった。
堕ろすようにと姉を説得して欲しかった。
相手が悪名高いアスマさんだと聞いた時、きっとアスマさんはそうしてくれるだろう――と、誰よりもわたしが思っていた。
酷い人間だと思う。
冷たい人間だと思う。
だけどアスマさんが言うように、誰もが自分の為に生きてるなら、これはわたしだけじゃなく、誰もがそうだという事になる。
自分の命は自分だけのものでしかなく、自分の人生もまた自分だけのものでしかない。
それこそが、自分を守るのは自分しかいないという事で、そうする事で人は強くなれるのかもしれない。
そう――思いたい。
「じゃあね、イチコさん!」
大きく手を振りアスマさんと歩いていくスズさんの後ろ姿を見て、少しだけ寂しくなった。
短い付き合いだったけど、わたしが出会った異界の住人は、わたしが今まで出会った誰よりも人間臭かったように思う。
自分の為に生きているという事が、結果誰かの為になる事もあるのかもしれない。
端から結果に向かって行動するのじゃなく、行動した結果がそうだったというのが本来の形なのかもしれない
ふたつの人影が見えなくなりそうなその時、スウッと影がひとつに重なった。
――その後わたしが異界の住人と関わる事は一度もなかった。
Devilの教え 改 了
Devilの教え ユウ @wildbeast_yuu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Devilの教えの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。