エピローグ


 姉の相手を探そうとしたのは、自分の為だった。



 姉が家を出た後の事を考えると――父がわたしに対してどんな要求をするのかを考えると――姉にはずっと家にいて欲しかった。



 姉の幸せを考えていなかった訳じゃない。



 だけどそれより自分の事が大事だった。



 だからどうしても相手を探して姉を説得して欲しかった。



 堕ろすようにと姉を説得して欲しかった。



 相手が悪名高いアスマさんだと聞いた時、きっとアスマさんはそうしてくれるだろう――と、誰よりもわたしが思っていた。



 酷い人間だと思う。



 冷たい人間だと思う。



 だけどアスマさんが言うように、誰もが自分の為に生きてるなら、これはわたしだけじゃなく、誰もがそうだという事になる。



 自分の命は自分だけのものでしかなく、自分の人生もまた自分だけのものでしかない。



 それこそが、自分を守るのは自分しかいないという事で、そうする事で人は強くなれるのかもしれない。



 そう――思いたい。




「じゃあね、イチコさん!」


 大きく手を振りアスマさんと歩いていくスズさんの後ろ姿を見て、少しだけ寂しくなった。



 短い付き合いだったけど、わたしが出会った異界の住人は、わたしが今まで出会った誰よりも人間臭かったように思う。



 自分の為に生きているという事が、結果誰かの為になる事もあるのかもしれない。



 端から結果に向かって行動するのじゃなく、行動した結果がそうだったというのが本来の形なのかもしれない



 ふたつの人影が見えなくなりそうなその時、スウッと影がひとつに重なった。




――その後わたしが異界の住人と関わる事は一度もなかった。





 Devilの教え 改 了

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Devilの教え ユウ @wildbeast_yuu

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