第14話 関わる人々の決断……④
きっと私の顔は複雑そうな顔そのものだと思う。
リビングに続く扉に手を置きゆっくり、ゆっくり開けて気持ちを整える。
扉を開けた先にはお父様が人数分のカップとお皿を用意していたところだ。
「2人とも座って待っててくれ、もうすぐ持ってくるからだから」
優しくにこやかに私達に向けて着席を促す。
「ありがとうございます」と私はお礼を言い座る。
「はーい、ありがとうございます!」と元気に答えて私の隣に雨湯児さんが座る。少し席を私の方にずらして近づく。
バームクーヘンの味が分かるかどうか正直自信がないが頂かないわけにはいかない。多分、この日の為に手間を掛けて作ってくれたのだろう、バームクーヘンはドイツ語で樹木のケーキ。幸せを重ねる、歳を重ねるとかそんな意味があったはず。
「お待たせしましたっと、好きな厚さで切って食べちゃいましょ!」
お母様が一本丸々のバームクーヘンを持ってきた。
「うはっ、こんな形のバームクーヘンは初めて見ました…美味しそう……」
「私も初めて見たかも…」
2人して衝撃を受けて固まった。衝撃的な光景に私の胸のつっかえは忘れる事ができた。
私は五センチ幅に切り自分の皿へ取り分ける、雨湯児さんは私より厚めに切り取っていた。
皆んなで頂きますとお母様に向かい手を合わせてからフォークを手に取り目の前のバームクーヘンを食べていく。
「美味しいです!すごい美味しいです!」
雨湯児さんが興奮してる。
私も口の中で味わう。程よい甘さにパサつきのない水分量、紅茶ともこの上なく合う。
「とても美味しいです、ホントにありがとうございます」
お礼を言わざるおえない…
「ううん、作った甲斐があったわ。あっそうだ」
お母様が何やら閃いたようだ、なんだろう。
「雨湯児さんはデリスと同じ部活だったのよね、部活のデリスはどんな感じだったの?」
「私も気になるな、娘はどんな感じだったかな?」
両親揃って質問をする。確かに部活のファスは私より雨湯児さんが詳しいだろう……知りたい。私は雨湯児さんを見る。
「そうですね、先輩は…誰よりも速くて基本に忠実に走る人でしたね。基本に忠実に走るクセに集団でペースを合わせて走る練習は嫌ってましたね」
言い終わると私とお父様、お母様が私を見て三人で笑いだす。
「部活でもあの子らしいな、なんだかその場にいなくても目の前で走ってるのが想像できるよ」
「ホントそうね、私は走りたいだけなんだーって感じで」
夫婦揃って笑ってる。
「速く走るためのフォームってあるんですけど、デリス先輩だけ忠実に理論的にと一人走り込んでましたよ。実際一番速かったです。ホントに憧れましたよ。一緒に走っても短距離走は勝てませんでした。まぁ私は中距離走でしたから戦場が違うんですけどね」
確かにファスは県大会で準優勝したぐらいだから速いのは間違いない。
そう言えば県大会の前にファスと何かあった気がする…なんだったかな。
「確かに好成績を残しただけの努力をしてたわけだねー、娘は運動神経が飛び抜けて息子は頭脳がまぁまぁ良かったと言う分け合った子供たちだったわけね」
笑いながらお母様はバームクーヘンを食べる。そして皆んなも食べる。
気づけば17時前になり私達は帰ろうかとお開きになった。
玄関先までご両親が見送りに出て来てくれた。
「今日はありがとう、楽しい話ができてよかったわ」
お母様が私と雨湯児さんを抱きしめてくれた。
「二人とも、また来てくれよ」とお父様も声をかけてくれる。
「はい、もう少し時間は欲しいですが整理していきます」
頬に温かい柔らかな感触を感じる。そして耳元で囁かれる。
「良い後輩に巡り会ったね、大事になさい」
お母様が私の頬にキスをしてたみたいだ、囁かれた言葉に私は雨湯児さんを見る。
「ま、悪くない後輩、ですかね」
少し微笑みながら言ったつもりだ。雨湯児さんがこっちを見て首を傾げてる。
「それじゃ……行ってきます、お母様」
「お邪魔しました!」
二人に見送られながら私達は車に乗る。
エンジンをかけた時に唐突に思い出した。
「あ、思い出した」
「?先輩、何を思い出したんですか?」
雨湯児さんが覗き込んでくる。
「いや、まぁ、学生時代のファスの事をねー」
県大会前に学校の放課後でファスにキスされたんだったな、学校では極力そう言うことはしないようにしてたが、県大会前の景気付けにキスしてきたんだった。
「ほーほー、それで何を思い出したんですか?」
さらに覗き込んでくる雨湯児さん。
「秘密ー、私のことばかり気にしちゃダメよー」
どうにかはぐらかす。
「ううー、まぁ、今は我慢します!すみませんが次は私の実家までお願いします」
「はーい、了解」
雨湯児さんから住所を教えてもらう。
ここから十分ぐらいの距離だ。
「先輩…大丈夫ですか?」
「そんな酷い顔してる?」
たしかにまぁ整理できてないのはできてないけども。
「まぁ、当然ですよね。役には立たないかまされませんがお話は聞きますから、先輩の事知りたいんですけどね!」
この子みたいに人生楽しんでるように生きていけたら少しは気楽になれるのだろうか…。
「ははは、そんなに私の事知りたいの?知ってどうするのさ」
「んー、秘密です!」
ホントに掴めない人だ。
車を走らせる事数分したところで、雨湯児さんが口を開く。
「私が実家に居る間にご実家に一度帰ってみたらどうですか?」
そう提案してきた。確かにその方が時間を気にする必要が減るかもしれない。私も少しは落ち着く時間が…欲しい。
「分かった、ありがとう雨湯児さん」
「いえいえ、何の事か分かりませんがどういたしまして」
戯けた様に言う雨湯児さんが少し可愛いと思った。
もう少しで目的地だ、焦らず運転しよう。
目的地のアパートに着き敷地前に車を停めて雨湯児さんが降りる。
「それじゃ先輩、帰る時に連絡しますね。そちらも気をつけて」
うん、わかったと答えて私は実家に車を走らせた。
雨湯児さんは何を親と話すのだろうか、私の家に何かあったかな。そんな事を思いながら実家に向かっていった。
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秘密と秘密で百花蜜 紅色甜茶 @hwved_19
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