第十五話 前世
コンコンッ
「入るね」
目覚めた女の子がいる部屋なので一応俺はノックをしてから入った。
「父さんが今スープを温めてくれているから少し待ってね」
「有難う…」
「気にしないで!」
少し沈黙の時が流れ気まずく感じたので、
「き、君の事はできれば父さんが来てから一緒に聞きたいから俺達の事を話すね!
君もまだ何も分からないから怖いだろうし」
「うん…有難う…」
時間潰しも兼ねて、俺は自分の名前や年、魔法が好きな事やニョロという武器の事を話した。
少女は小さく相槌を打ちながら真剣に耳を傾けていたが、魔法の話しになると少し緊張が強まった反応をしていた。
「で、ここは多種族のヒトが暮らすオーチュ国の辺境、ダクツって町だけど、この国は永世中立を宣言しているから平和な国なんだ」
「いい国なんだね」
緊張や怯えがなくなってきたのか、少女はだいぶ普通に受け答えができる様になってきた。
そんなタイミングで、
コンコンッ
「父さんだ!ご飯ができたみたい!」
俺は急いで部屋のドアまで行き、中からドアを開けてあげた。
「おはよう。体調は良くなった?」
「はい…有難うございます…」
初対面の大人の男性が来たからか、また少しぎこちない喋り方に戻った。
「父さんは俺よりもっと優しいから怖がらなくていいからね」
「うん…」
「ハハハ、まぁ初めて会う大人の男は怖いよね。
無理はしなくていいよ」
「いえ…大丈夫です…有難うございます…」
「ご飯は食べれそう?
昨日の残りで悪いけどスープを温めて来たから良かったら温かい内にどうぞ?」
そう言って父はスープを乗せたトレイをベッド横のテーブルに置いた。
少女は体を起こし、ベッドに腰掛けてデーブルに向き合った。
スプーンを手に取り、熱いスープをフゥフゥして少し冷ましてから飲むとピタッと手が止まり急に泣きそうな顔になった。
「う、うぅ…」
「どうした?何か変な物入ってたか?
嫌いな物とかあったか?」
父がオロオロしている。
「違う…すごい久々に食事をした気がして…
温かくて…美味しくて…嬉しくて…」
「そうかそうか、無理して食べ切らなくてもいいし、逆にもし足りなかったらお代わりもあるからゆっくり食べてくれ」
「有難う…」
そう言うと少女はもう泣きそうな顔どころではなく、完全に目からボロボロ涙が落ちている。
「と、父さん、この子だけ食べて俺達がそれを見ていたら食べにくいだろうから俺達も一緒にここで朝食にしない?」
「お、おぉ、それいいな!
じゃあ俺らの分のスープとついでにパンでも持って来るか!」
そう言って父はドアを開けっ放しで出て行きすぐに二人分の朝食を持って戻って来た。
少女が食事をしているテーブルに俺達の朝食も置き、椅子だけ持ってきて三人で食卓を囲んだ。
「あぁ、食べながらでいいから、まず君の名前は分かる?
さっきからずっと名前で呼べず、君って呼んでるのが何か申し訳なくて…」
「名前…私の名前は………」
「あ、じゃあ今まで何をしてきてどんな事があったのかは覚えている?」
名前を言いにくいのか思い出せないのか分からないが少女が言葉に詰まったので別角度から父が切り込んだ。
「最後に覚えているのは…
私が二才の誕生日に…
知らないヒト達に捕まって檻に入れられて…
お父さんお母さんが追い掛けてきたけど…」
少女の手が止まり再度言葉に詰まった。
少し間が空き、
「たぶん魔法で…
誰かがお父さんとお母さんを…
燃やしたの…」
「「「!?」」」
俺と父とニョロが声にならない声で反応した…
二才の女の子がそんな経験をしたのかと思うと言葉が出ない…
「そこからはもう何も覚えてなくて…
気が付いたらここにいた…」
「そっか…
ごめんね…嫌な事を思い出させて…」
父がそう言うと少女はまた大粒の涙をこぼした。
「名前はね…【ピン】って名前なの…」
「ピン…ちゃん…」
俺は一瞬ドキッとしてつい呟いてしまった。
と言うのも、ピンという名前は前世で俺が溺愛していて十五才で亡くなった最愛の飼い犬と同じ名前だからだ。
「お父さんとお母さんはね…
本当は違う名前を私に付けようとしてたみたいだけど…
私が最初に喋った言葉がピンだったみたいで…
ピンって私を呼ぶと私が喜んだからピンにしたって言ってた…」
「優しいお父さんとお母さんだったんだね。
自分達が呼びたい名前よりもピンちゃんの笑顔を優先したんだから…」
そう言うと同時に父も泣き出した。
「うん…
さっきは名前を聞かれて、お父さんとお母さんの事を思い出したから言えなかった…」
俺も泣きそうだが、俺は先程聞いた前世の話しとピンという名前に期待を込めてどうしても聞きたい事がある。
「あのさ、ピンちゃん…
さっき、前世の…と言うか、違う生き物の記憶があるって言ってたけどさ…
覚えている限りで、どんな記憶があるの?」
「えっとね…
私、何でか自分が犬だった時の記憶があるの…」
「犬から吸血鬼族に進化か変化したって事?」
「流石にそれはないと思うでベッコウはん…」
ニョロが父につっこんだが前世とかのワードが出てきて父が混乱するのも理解できる。
「たぶん違う…
さっきサンノ?が言ってた、生まれる前の記憶…」
「やっぱり!
もしかしてなんだけど、犬の時の記憶でピンって呼ばれてたの?」
「うん…そう…
たぶんその時の私の名前…」
「もしかしてだけど、その時、ちょっと怖い顔をした男の人と一緒にいなかった?」
「え、うん…そう、だけど…」
「も、もしかしてだけど、黄色いヒヨコのおもちゃが好きで、たまに白い車で一緒にお出掛けしてなかった!?」
「うん…見た目は少し怖いけどすごい優しくしてくれた人…
もしかして…お兄ちゃん?私のお兄ちゃんだった人?
私の足腰が動かなくなって寝てばかりになっても、私が起きたら寝ていてもすぐに気付いて起きて私を毎回トイレまで運んでくれたお兄ちゃん!?」
「そう、そう…たぶんそのお兄ちゃんだよピン…」
俺もピンも号泣して抱き合った。
「どういう事だ?サンノとピンちゃんは知り合いだったって事か?」
「あぁ、まぁ何ちゅうか…」
「いいよニョロ、有難う、俺が説明する。
ごめんね父さん、置いてけぼりにして」
抱き合ってた俺はピンから離れて父に向き合った。
「いや、まぁそれはいいんだが…
どういう事だ?」
「あのね父さん…
今からする話しを聞いても俺が父さんをこの世の誰よりも好きなのは変わらないからそれだけは先に分かっててほしい…」
「あ、あぁ、改めて言われると少し照れるけど…
分かった!」
「うん…俺とピンはね、前世の記憶があるんだ…」
「前世?」
「うん、俺がサンノとして生まれる前の、違う人間だった時の記憶…」
「うん?うん…」
「俺がこの世界に生まれる前は全く別の星の別の世界で生きてて、その時は同じくピンの前世が俺の飼い犬だったんだ…」
「あぁ、ちょっと儂から補足するとやな…
ベッコウさんも皆、あらゆる生命は輪廻転生っちゅうて何かしらの生まれ変わりなんや。
で、通常生まれ変わったら前世の記憶はなくすんやがサンノやピンちゃんの様に、稀に生まれ変わる前の記憶を引き継いどうヒトがおるっちゅう事や」
「なるほど…だからお前は年の割にしっかりしてたのか…?」
「お、流石ベッコウさんやな!
理解が早くて助かるわ!」
「でも俺がここで父さんに愛されて育った七年間の思い出ももちろんあるし、大事な家族である事に変わりないのは分かってほしい…」
「なるほどな!
要するに、お前からしたら俺も大事な家族だし、ピンちゃんも大事な家族って事だな?」
「そうだね…」
「うん、よし!分かった!
じゃあピンちゃんさえ良ければここで一緒に暮らすか?」
「「え!?」」
俺とピンがハモった。
「だってピンちゃんもお前にとって大事な家族なんだろ?
じゃあ俺にとっても大事な家族になる訳だしな!
ピンちゃんもお父さんとお母さんを亡くされて行く所ないならいつまでもここにいていいぞ!」
「いいの…?」
ピンはそう言うとまた泣き出した。
だいぶ泣き虫になった様だ。
「いいの?父さん…有難う…」
というか俺も結局泣いてしまったからピンの事は言えない様だ。
「あぁ、そうそうベッコウさん。
今まで黙ってて悪いんやが、実は儂はサンノが生まれ変わる時この世界に連れ込んだ案内人みたいなもんなんや」
「なるほど、じゃあニョロさんはサンノとピンちゃんを俺に引き合わせてくれた神様なんですね!」
「いや、まぁそんなええもんやないけど…」
「お前、父さんの真っ直ぐな想いに珍しく照れただろ」
「やかましいわ!」
「「「ハハハハハ」」」
色んな秘密や謎が明らかになって肩の荷が下りた事もあり、父と俺とピンは声を揃えて笑ってしまった。
「まぁじゃあピンちゃんはもう俺の娘みたいなもんだから今後はサンノと同じ様にピンって呼ぶし俺の事はお父さんとかパパとか好きな様に呼んでくれ!
まぁ亡くなったお父さんと変えた方がいいだろうからサンノみたいに父さんでもいいしな!」
「うん、じゃあ父さんって呼ばせてもらいま、じゃなくて、呼ばせてもらうね!父さん!」
「おう!じゃあ俺はそろそろ仕事に行ってくる!
帰りはピンに必要な物とか買ってくるから少し遅くなるかもしれんが…」
俺とピンは申し訳なくも感謝を父に伝え見送った。
元(?)愛犬の為なら地球侵略もやぶさかではない 高山あきの @a-takayama
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