第2話 悪霊の正体

『幽霊退治』


 その言葉を聞いた瞬間、俺は同志を見つけた喜びと花を退治される不安との相反する二つの感情が溢れ出た。


 初めて出会った自分以外の幽霊が視える人間、でもこいつは特技を幽霊退治と言った。

 この部屋にいる幽霊は花1人。



「今、幽霊退治って言ったか?」


「はい。まあ正確には“悪霊”もとい“鬼”と呼ばれる霊ですね。」



 悪霊…?鬼…?

 ……まあ悪い霊をそう呼んでるんだろう。

 だったらやっぱり人違いだな。



「この部屋には悪霊なんていないぞ。」


 花が悪霊なんてことはありえない。

 3ヶ月も一緒に住んでる俺が言うんだから間違いないだろう。


 だが、俺の予想とは反して女子高生は花を指差し答えた。



「いるじゃないですか。そこに。」



 間違いない、こいつは……



「花を殺す気か?」


「花とはその霊の事ですね。だとしたら答えは“その通り”です。まあ幽霊なので殺すという表現は間違っていますが。」



「正確には“祓う”です」と子供に教える様に語りかけて来る。

 その様子はあまりにも自然体で、今から花を殺そうとしている人間の振る舞いとは思えない。



「こいつは5歳で死んで、それからずっとこの部屋で母親を待ち続けてるだけの霊だ。悪霊なんかじゃない。」


「霊というのは長く現世に止まれば止まるほど力を増し、生者に悪い影響を与える様になります。そこの霊、一体何年現世にいると思いますか?」



 俺はその答えを知っている。

 8年、余りにも長い時間だ。

 だけどそれだけでは納得できない。

 実際に花は俺に何もしていないのだから。



「俺は3ヶ月この部屋に住んでいるが何の影響も受けていない。至って健康体だ。何かの間違いじゃないのか?」



 俺の言葉に女子高生は呆れたようにため息を吐いた。



「はぁ…一色さん、事故物件の告知義務が何年間なのかはご存知ですか?」



 事故物件の告知義務?

 今それが関係あるのかと思いつつ、知らないので首を横に振る。

 俺が知らない事が分かると女子高生は指を3本立てて答えた。



「3年。事故発生から概ね3年間は告知義務が残ります。さて、そこの幽霊は8年前に死んでいる訳ですが、何故この部屋は未だに事故物件となっているのでしょう。」



 俺の脳裏にはさっきの会話で花が言った一言が思い浮かんだ。


もみーんなそう言ってたけど迎えに来て来れなかったもん。花、ず〜っと待ってるんだよ?”


“今までの人”

 そう、過去にもこの部屋に住んだ人間は何人もいたんだ。

 わかってしまった。

 女子高生の言いたいことが。


 俺はこの部屋を契約する際、確かに事故物件だと聞いてこの部屋に入居した。

 大家から事件の内容は詳しく聞いていない。

 だって俺は霊が視えるから、そいつから聞いた方が早いと思っていた。

 そしてこの部屋にいたのが、花だ。


 花の事件が8年前。

 3年で告知義務が無くなるというのに「8年前に事件がありましたよ」なんてわざわざ知らせるもの好きな大家はいない筈だ。

 だとすると考えられる可能性は1つ。


 この8年間、死者が出る何かしらの事件がこの部屋で起き続けたということ。



「1…2…3……10人以上か…生者死者関係なく魂を喰らい続けて来ましたね。よく今まで見つからなかったものです。一色さん、貴方は部屋の外へ。」



 真実を知った事で急に恐怖が芽生えたのか、気が付くと俺は女子高生の指示通り部屋の外に出ていた。



『お兄ちゃん…?……そっか。お兄ちゃんも花のこと置いて出て行くんだね。お母さんみたいにっ!!』



 瞬間、花を中心にナニカが溢れ出し、その姿を変貌させた。

 それは人間とは程遠くどちらかと言えば昆虫、蜘蛛に限りなく近い化け物。



『嘘吐き…お母さんも、お兄ちゃんも、みんな嘘吐き。花のこと置いて行く人なんて、みんな死んじゃえばいいんだ。』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年9月23日 08:00

鬼死道~心優しき青年は鬼を斬る為、鬼と為る~ 杉ノ楓 @sou1234

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画