昔の話をしよう

緋雪

同じ月を見上げた日

「今夜は月を見ない?」

 あなたはそうメールをくれた。

「中秋の名月なんだ」

 空は晴れて、綺麗な月が見られそう。

「電話する。一緒に見よう」

「はい」

 私は一言返信をした。


 雲一つ無い夜空に、月は優しく輝く。


「綺麗だね」

「綺麗ですね」

 隣に座って見たかった。


 電話越しの声でもいい。

 私はあなたの声が好き。


「不思議だね」

 あなたが言う。

「こんなに離れているのに、見ている月は同じなんだね」

 そう。私たちは遠く遠く離れたところから、同じ月を見上げていた。


「会いたいよ」

 もう叶わない想いを飲み込む。


 ついていかなかったのは私。

 それでもまだ想いを捨てきれないのも私。


「ごめんなさい」

「ごめんね」

 を繰り返し、私たちは別れた。


 そして今日、最後に月を見上げている。


 まあるい月が滲む。

 あなたとの時間が終わりを告げる。



 ありがとう

 大好きでした

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昔の話をしよう 緋雪 @hiyuki0714

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