手を出したら終わる彼女の姉からの誘惑がエグい

三葉 空

第1話 美人姉妹サンド

 僕は世間で言うところの、陰キャ側の人間。


 だから、高校生活はもう、灰色まっしぐらだと思っていた。


「――成瀬なるせくん、好きです」


 それが、クラスで1番可愛い子に告白されて。


「へっ?」


 僕は陰キャの分際で、入学早々に、バラ色の高校ライフを手に入れてしまった。


 いや、バラ色というか、桃色?


「はい、ふみくん、あーん」


「あ、あーん」


 とにかく、あまりにも過剰な糖分摂取により、僕の脳みそは確実に病に侵されていた。


 これがいわゆる、恋の病というやつだろうか?


 僕には無縁だと思っていた。


 神様、これは何の因果でしょうか?


「あの、朝子あさこちゃん」


「なに?」


「その、どうして僕のことが……好きになってくれたの?」


「それは……優しいから」


「そ、そうかな?」


「あと、物静かで、素敵だなって」


 ただ、陰キャなだけですけど。


「ふみくんは、わたしのこと、好き?」


「そ、そりゃ、もう……僕にはもったいなすぎる君だから……好きです」


「やだ、照れちゃう」


 やばい、ゲロ吐きそう。


 今の僕は、天然の砂糖製造マシーンになれる。


 おい、陽キャはみんなずっと、日々こんな砂糖地獄にまみれて生きているのか?


 いや、あいつらはもっと、ラフに恋愛を楽しんでいるか。


 ただ僕が不慣れで、童貞だから、いちいち重く受け止めているだけか。


「ねえ、ふみくん。今日、わたしのお家に遊びに来ない?」


「えっ? お、お家、ですか?」


「うん、ダメかな?」


「いや、むしろ……い、良いんですか?」


「もちろんだよ。わたし、彼氏が出来たら、お家に呼びたかったの。出来れば、家族とも仲良くなってもらいたいし」


 家族と仲良く……それはもう、結婚……げふぉッ!?


 こ、これ以上の思考はやめておこう。


「な、何かお茶菓子の差し入れは必要でしょうか?」


「じゃあ、帰りにコンビニで、何か買って行こう♪」


「わ、分かりました」


 こうして、陰キャ童貞の僕は、人生初カノのお家に、お呼ばれされる。




      ◇




 歩くたびに、流れるような黒髪のロングヘアーが、さらさらとなびいて。


 すれ違う男たちが、いちいち振り向く。


「おい、今の子、超かわいくね?」


「声かけっか?」


 普通、自分の彼女がそんな風に言われたら、男はムッとするだろう。


 けれども、今の僕はそうならない。


 なぜなら、まだこの美少女が、僕の彼女だという自覚と実感がないから。


 正直、悪質な陽キャが仕掛けたイタズラなんじゃないかと、疑っている節がある。


「わたしのお家、もうすぐそこだよ」


「あ、うん」


 彼女の家は、シンプルに良い佇まい。


 どうやら、なかなかに裕福な家庭らしい。


 少なくとも、僕の家よりは。


 なんて思ったら、両親に申し訳ないな。


「どうぞ、上がって」


「お、お邪魔します」


 入ってまず感じたのが、良い匂いがするということ。


 これは、朝子ちゃんの匂い……って、変態か。


「こっち来て」


「あ、はい」


 変態な僕を笑顔で導く彼女。


 罪悪感を覚えつつ通されたリビングは、やはりきれいだ。


 テレビのサイズも大きいし。


 ソファーも立派だ。


「じゃあ、お菓子ひろげよっか。あと、ジュースのコップ用意するね」


「ありがとう」


 朝子ちゃんがコップを持って来る間に、僕はガサゴソとお菓子を出す。


「お菓子、お皿に移す?」


「ああ、どうしようか」


「一応、持って行くね」


 朝子ちゃんはトレーにコップとお皿を載せてやって来る。


「ふみくん、どれ飲みたい?」


「僕は……オレンジジュースで」


「うふ、可愛い」


 そんな君こそ、可愛すぎる。


「わたしは、リンゴジュースにしよっと」


 トクトクトク。


「では、乾杯」


「か、乾杯」


 カチン、とコップをぶつけ合う。


 僕はドギマギしながら、口をつける。


 一方、朝子ちゃんは両手でお上品に、ジュースを飲む。


「うん、美味しいね」


「そ、そうだね」


 味が1ミリも分からなかった。


「ポテチ食べる? それとも、チョコ?」


「ポ、ポテチで」


 これ以上の糖分摂取は、マジで脳が壊死する。


「じゃあ……はい、あーん」


 朝子ちゃんはきれいな指先でつまんだポテチを、僕の口元に運ぶ。


「あ、あーん」


 パリッ。


「美味しい?」


「お、美味しいです」


 味は1ミリも分からない。


 脳よりも先に、味覚が死んだらしい。


 でも、確実に胃袋に溜まっている。


 何より、心に幸福が充填されすぎて、胸がいっぱいだ。


 やばい、今までにないこと過ぎて、本当にゲロ吐きそうだ。


「えへへ、幸せだなぁ。わたし、彼氏とこうして、お家でイチャイチャするのが夢だったの」


「そ、そうなんだ」


「ふみくんは、楽しい?」


「た、楽し過ぎます」


「本当に? 良かった、わたしだけが暴走しちゃっているのかって心配で」


 まあ、このまま行くと、僕の方が暴走しそうだけど……


 いやいや、童貞。


 お前はちゃんと、紳士でいろ。


 でも、このまま甘い空間に包まれていたら、本当にトチ狂ってしまいそうだ。


 こんな素敵な彼女を汚す訳にはいかない。


 僕は何も入っていない口の奥歯を噛み締める。


「――ただいま~」


 その時、玄関の方から声がして、ビクッとなる。


「あ、お姉ちゃんが帰って来たみたい」


「お、お姉ちゃん?」


「せっかくだし、紹介しても良い?」


「は、はい……」


 マジか、超絶に緊張して来た。


 僕は一気に心臓が高鳴る。


 さすが、童貞、メンタルざこし。


「あさちゃん、いる~?……おや?」


 入って来たのは、スラッとした美人。


 髪はショートヘアで、朝子ちゃんとは対照的。


 でも、目元のあたりは似ている……のかな?


 うん、これは紛れもない、美人姉妹。


「お姉ちゃん、おかえりなさい。こちら、わたしの彼氏の、成瀬文人なるせふみとくん」


「は、初めまして」


「うん、初めまして。朝子の姉の、高柳星来たかやぎせいらです」


「ど、どうも……」


 突如として現れた、これまた素敵なお姉さまを前に、僕の童貞力はマックスとなる。


「あ、お姉ちゃんも一緒に、お菓子たべない?」


「え~、良いの? お腹空いていたんだ~」


「食べて、食べて~」


 お姉さまは、妹のとなり……ではなく、僕のとなりに座った。


 ふぁッ!?


 び、美人姉妹にサンドされた……


「お姉ちゃん、何が飲みたい?」


「2人は何を飲んでいるの?」


「ふみくんはオレンジジュースで、わたしはリンゴジュース」


「可愛いね~。じゃあ、私はミックスで」


「混ぜるの? さすが、大人だねぇ~」


「せっかくだから、君たちの唾液入りのそのジュース、もらおうかな」


「もう、お姉ちゃんってば、変態チックだよ」


「ウソウソ、ごめん。あ、文人くん、引いた?」


「あ、いえ……全然」


「むしろ、嬉しかった?」


「そ、そんなことは……あ、いや……」


「もう、お姉ちゃんってば。ふみくんをイジめないでよ」


「ごめん、ごめん」


 お姉さんはペロッと舌を出しつつ、チラッと僕を見る。


 そして、ニコッと微笑んだ。


 僕は動揺して、目線を落とす。


 けど、その先に、さらなる動揺を誘うものが。


 おっぱい……デカッ。


 朝子ちゃんは控えめなのに……って、バカ!


「あれあれぇ~? 文人くん、どこ見ているのかな~?」


「ハッ……い、いえ……すみません」


「良いよ、可愛いから、許す」


「あ、ありがとうございます……?」


「良かった、2人とも仲良くしてくれて」


「もちろんだよ~。だって、可愛い妹の彼氏くんだもん。私だって、仲良くしたいし」


「ありがとう、お姉ちゃん」


 朝子ちゃんは嬉しそうに微笑む。


 お姉さんも微笑んでいる。


 けど、やはりそこには、妹にはない、妖艶さがあった。







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