第10話
勝負の終わりを告げるブザー音が鳴り響いた。
バルは……強かった。学園大会2位の実力は伊達ではない。しかし……私のほうが、一枚上手だったようだ。
「暫くの別れだ、バル・ビネガー。」
私は何気なくちらりと、ステージにいるケトスを見た。しかし、それを合図だと思われたのか、ケトスは指を鳴らす。
すると、バルの体が光に包まれ、小さく、小さくなっていく。手のひらほどの大きさになった光は薄くなっていき、カードになってそのままケトスの手元へ飛んでいった。
「今回のスペシャルカップ、優勝は……グレイ・マスタード!」
2人しかいない会場に、ケトスの声が響き渡る。元々参加者もそう多くは無かったが、今はもう誰一人いない。
優勝商品だって、ただ、ケトスと戦う権利が貰えるだけだ。普段なら知らない奴との対戦権利なんて欲しくはない。しかし今はどうしてもそれが必要だった。
私はステージの上を見上げ、そこに立つケトスを見つめる。彼も、それに気づいたのかこちらを向いて、にっこりと微笑んだ。
「おめでとうございます、ふふ、やっぱり優勝してくれましたね。」
「……」
私は、ケトスの言う事には答えず無言で睨みつける。しかし彼はその視線を気にも留めずに言葉を続けた。
「じゃあ……戦いましょうか。
ケトスはステージの上から飛び降りると、そのまま、さっきまでバルがいた場所へゆっくり歩いていく。
彼はデッキをセットし、私に向かってにっこりと微笑んだ。
「さあ、始めましょうか。僕が勝てばこのカードとあなたはすべて僕のもの……楽しみですね。」
「ふん、トーナメントを見た上で私に勝てると思っているのなら、大層な自信だな。」
私は先程の勝負で使ったカードを纏め、シャッフルした上で再度セットする。
「では……スペシャルカップ、エキストラマッチ、開始です!」
ケトスは高らかにそう宣言すると、電源が切れたかのように静かになる。そして、ゆっくりと顔を上げると、静かにデッキからカードを引いた。
「ドロー……」
一瞬にして人が変わったように鋭い目つきで手札に視線を落とす。ぶつぶつと私に聞こえない声量で何かを呟くと、1枚カードを手に取った。
次々にカードが処理され、コストが増え、減って、効果が発動され、適用される。
今発動されたカードのうち、気をつけなければいけないのは[レイナの檻]だろうか。このカードが場にあるかぎり、コスト4以上のモンスターは攻撃することができない。
……と、彼は私のよく知るフレーヴのようなロックデッキを使っているようだが……今使用したカードは見たことがない。それに、あの表情……あんなに勝負を楽しみにしていたケトスが、魂が抜けたような、そんな表情をするだろうか。
「……ターンエンド。」
「私のターン、ドロー。」
彼は1ターン目とは思えない動きで私の行動を制限した。お陰で動きにくくて仕方がない。
1回戦後半にケトスと話した時、一瞬だけフレーヴが出てきていた。私に掴みかかり、何かを言いたそうにしていたフレーヴが………
カードを処理している間に、フレーヴの体を覆う赤黒い侵食が溶けているのが見えた。きっとあの侵食がケトスなのだろう。
やはりまだフレーヴは生きていて、今私と戦っているのではないだろうか。
いや、今考えるべきはそれではない。彼がケトスだろうとフレーヴだろうと、彼に勝たなければ、カードにされるのだ。
「[ホログラフ・アトリエ]を発動。デッキの上から3枚カードを捨て場に贈る。さらに任意の数カードを捨て、その分コストを得る。そして……コストを全て使用して[レディアント・ライブラリアン]を召喚する。」
彼の視線がぴくりと動く。
「そんなコストの高いモンスターを出しても攻撃できませんし、効果も使えませんよ。」
そんな事は十分に分かっている。大切なのは次だ。しかしまあ、これで逆転と言えるほど戦況をひっくり返せるわけではないが。
「……場に効果を使用していないコスト5以上のモンスターがいる場合、その効果使用権を放棄して[マナクル・クピードー]を召喚する。そして、自分の場のモンスター1体と、相手の場のカード2枚を選んで破壊する。[レディアント・ライブラリアン]、そして[アリシアの鏡]と[ペーターの棺桶]を破壊する。」
[レイナの檻]は破壊しなくてもいいだろう。どうせ私の場に残るモンスターはコスト0の[マナクル・クピードー]のみだ。
「なっ……」
彼は、自分のカードが破壊されていく様を見て、小さく声を漏らした。完璧にロックが決まったとでも思ったのか?まあ、私にここまで手札を使わせたのだ。その点は評価できる……が、私を甘く見過ぎだ。
「[マナクル・クピードー]で攻撃だ。」
彼のライフが削られる。まあ、微々たるものだが……
「ターンエンド。」
彼の瞳は動揺で揺れていた。
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