第7話
「よ、予選、通過……!やったよグレイくん!これで予選通過だよ!」
「ああ。よくやったな、フロスト。」
興奮冷めやらぬフロストは嬉しそうに私に笑いかけた。カイエンもバルも予選通過したらしく、喜ぶ3人を見て私は目を細めた。
正直、フレーヴが予選通過したのかも気になる所だが、あの男の事だ、私が心配せずともきっと勝ち進んでいるのだろう。
「もう一人前のユニバース・ノートプレーヤーだな。」
「い、いや……それはちょっと気が早いって……!」
照れながら頭をかくフロストに、カイエンは「謙遜すんなって!」と背中をバンバン叩いている。
「本選は側にいてやれないが、キミなら大丈夫だ。」
「うん……!が、頑張る……!」
フロストは手を握りしめて頷いた。
――……強い眼差しだ。この間までは負けたらどうしようとおどおどしているだけだったのに……たった数ヶ月でよくここまで成長したものだ。
「もうすっかり指導が板についたな、グレイせーんせ!」
「な、そんなつもりは……!」
「違うのか?てっきりオレはインストラクター志望なのかと。」
バルはきょとんとした顔で私を見つめる。本気でそう思われていたのか。
「別にそういう訳ではない……!」
確かに私がしっかりと指導できるように改めてユニバース・ノートについて勉強した事はある。が、それはこのサマーカップに出るフロストを鍛え上げて本選の相手を叩きのめすためだ。決してインストラクター志望などでは無い!……はずだ。
しかしまあ、こうして人に教えるのも、その結果感謝されるのも悪い体験ではない。
私はいずれ父の仕事を継がなければならないが、それまでは……初心者を集めて、ユニバース・ノート講習会なんてするのも、面白いかもしれない、な。
そうして3人の本選出場が決まった次の日、担任から他クラスに行方不明者が出ていると聞かされた。
最初に行方不明者が出たのは一昨日だというが、昨日さらに何人かの生徒が行方不明になってしまった上、教師にも行方不明者が出たため、今日の午前授業は急遽自習時間に変更された。
先生たちはこれから会議をして、今後授業を同じペースで行うか、学級閉鎖として事件が解決するまで自宅待機にするかを相談するらしい。
これからまた行方不明者が増えるようでは、学校だけでなくサマーカップの開催も危ういだろう。
教室内はざわざわと騒いでおり、カイエンもどこか不安げな顔をしている。
「な、なあ……これって大丈夫なやつなのか……?」
「さあね……でもあまり軽視しないほうが良さそうだ。」
騒ぐ生徒の言葉を盗み聞きすると、行方不明者は全員ユニバース・ノートプレーヤーだという。
まさか、サマーカップに乗じた犯行だというのだろうか。
しかし、大会のためにプレーヤーを拉致するというのは正直、犯行理由がわからない。大会前にそんな大事件が起こったとなれば、大会の開催がされない可能性だって十分あるというのに。
――いや、今重要なのは理由ではなく解決策だ。
私の知識によればこういった未曾有の事態は「ボス」によって引き起こされるものだ。その「ボス」を倒すためになんとかカイエンには頑張ってもらわなければ。
万が一カイエンが行方不明者になってはどうしようもない。なんとか犯人がわかるまで、危ないことに首を突っ込まないように注意しておかなければ。例えば……見ず知らずの人間にユニバース・ノートの対戦を挑まれても受けない、とか。
2日経っても事態は沈静化せず、むしろ日に日に行方不明者が増えているようだった。
今日はついに私のクラスの生徒まで2名が行方不明になった。明日以降学校は閉鎖されることとなった。
行方不明者の名前こそ聞いていないが、フレーヴの姿も見ていない。彼も、巻き込まれてしまったのだろうか。
それに、バル・ビネガーも昨日から学校へ来ていない。フロストは、次は自分が、カイエンが、私が行方不明になるのではないかと、不安そうに過ごしている。
私も正直気が気でなかった。カイエンは口にこそ出さなかったものの、明らかにイライラとしているのが目に見えてわかるし、その姿にフロストは怯えている。
この数日、知識から似たような事例の物語を片っ端から引き出して、解決策を模索した。
とにかく取れる対策を取らなければ。私も「ボス」の「手下」と戦わされる可能性はある。デッキの調整をして、対策を立てなければ……。
その日の放課後、私は父が寄越した馬車に乗って家へ戻る。
これからどうするか、一体どうすればこの危機を乗り越えられるのか、私は考え続けた。
すると、普段止まることのない道で馬車が止まる。
御者に「どうした?」と問いかけると、「人が急に現れた」との事。
何か御者と話しているようだが、どうも不穏な空気がする。私は窓から外を覗き込み、絶句した。
馬車の前に現れたという人間は、フレーヴだった。私は御者に、自分が相手をすると伝え、馬車から降りる。
前に見たときよりも顔色が悪い。それに、一体どうしてこんな所で馬車の前に飛び出すような真似をしたのだろうか。
「フレーヴ?急に馬車の前へ出るなんて、危ないだろう。」
「……」
彼は何も答えない。それどころか、私の声などまるで聞こえていないかのように虚空を見つめている。
私は一瞬躊躇ったが、フレーヴの肩に手を置いて、彼の体を揺さぶる……しかし、反応はない。
「……フレーヴ、おい、フレーヴ!しっかりしろ!」
私が大声を上げるとようやくフレーヴはこちらを見た。その目を見て私は思わずたじろいだ。
その瞳には何も映っておらず、ただ空虚だけが広がっていたのだから。
「グレイ」
彼は私の名前を呼ぶとにたりと不快な笑みを浮かべる。どき、と恋情とは別の意味で心臓が跳ねた。
すると彼の足元から黒い影が這い出し、私達を一瞬のうちにして取り囲む。
私は思わず後ずさりをしたが、影はまるで拘束具のように私に絡みつき、自由を奪っていく。
「な……」
私の言葉は闇に飲み込まれ、すぐさま意識も溶けていった。
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