第6話

「なあ!サマーカップの優勝賞品見たか!?って……グレイ、参加しねーんだったな。」

「ああ。」


 昨日発表されたサマーカップの詳細、特に優勝賞品にカイエンは興奮しているようだった。

 私も参加はしないものの、その珍しい優勝賞品に色めき立つ気持ちがわからないでもなかった。

 なにせユニバース・ノートの祖である、グアニル氏の使用していた[アルミラリア・マウンテン]のクリスタルレプリカだというのだから。

 今までの大会の優勝賞品とはまた一風変わった、珍しいものと言える。

 それに、大会会場ではルタミン氏の原画や制作ノート、初期のプロトタイプカードが展示されるだけあって、運営もこの大会に力を入れていることが伺える。

 かくいう私も、ルタミン氏の原画はひと目見ておきたいという気持ちが湧き上がっていた。


「な、なあ、考え直す気はないか?フレーヴもさ、グレイと戦いたいみたいだったし……」

「フレーヴ?」

「あの前放課後俺が戦ったヤツだよ。フレーヴ・ソルト。知り合いなんだろ?」


 ソルト?この辺りでソルトと言えばソルト家しかない。父の友人であるガリア・ソルト氏の息子だろう。

 と、いうか……幼い頃にフレーヴ・ソルトには会ったことがある。顔は思い出せないが、妹のハニーとよく遊んでいた少年。

 稀にハニーにそそのかされてユニバース・ノートで勝負した経験もある……

 本当にあの彼がフレーヴと同一人物なのだとすれば、彼が私の名前も見た目も知っているのに説明がつく。

 私は昔会っていた人間に再会したのに気づかず一目惚れをしていたのか?過去の自分の交流嫌いにほとほと呆れる。


 彼は私の事をどう思っているだろうか。子供の頃完膚なきまでに叩きのめしたのを恨んでいるだろうか?昔の自分の事だ、負けたフレーヴ相手に酷い言葉を吐いているに違いない。

 何ならソルト……調味料の名前が付いているのだ、「メインキャラ」であることは間違いない。カイエンと戦っていたのも、「ストーリー」を進めるための……


「なあ、おい、グレイ?聞いてるか?」

「……え、あ……すまない。」


 カイエンの声で我に返り、私は謝罪する。しかし彼は特に気にも留めず話を続けた。


「無理にとは言わねえけどさ、やっぱグレイが出ないと張り合いが無いって言うか……」

「オレじゃ張り合いがねぇって言うのか~?」


 その声に顔を上げると、カイエンの後ろにバルの姿があった。


「ば、バル先輩!居たのか?」

「い~やさっき来たばっかだけどよ、今のはちょっと聞き捨てならねーなぁ?」


 バルは両手でカイエンの頭をぐりぐりと押さえ付けて笑う。


「ご、ごめんって!バル先輩も張り合いがある強いプレーヤーです!!」

「わかりゃいーんだ、分かりゃなぁ。」


 バルはぱっと手を離してカイエンを解放すると、今度は私の方へと視線を移す。


「で?グレイは参加しねぇのか?」

「ああ……サマーカップには参加しない。その代わりと言ってはなんだが……フロストを本戦出場できるほどに鍛え上げよう。」


 それは先日、フロストの相談に乗っている時に決めたことだった。フロスト自身も強くなりたいと願っていたし、私も何か、フレーヴの事を考えなくて済む事に集中したかった。

 とはいえ、フレーヴもサマーカップに参加するようだから、フロストが当たる可能性はあるのだが……。


「え、フロストを?」


 意外だったのか、2人は驚いたような顔をする。


「今に見ているがいい、フロストはいずれ君達を打ち負かすほどの力を手に入れるはずだ。なんせ、私がつきっきりなのだからな。」

「そうか!じゃあ俺たちも頑張らねえとな!」


 私が挑発するように言うと、カイエンはフロストを追い越さんとばかりに意気込んだ。

 それに釣られる形でバルも「さすがにルーキーには負けられないからなぁ!」とカイエンに続く。

 私は2人の意気込みを見守りつつ、フロストへのティーチングに気合を入れ直した。








 予選が始まり、参加者がそれぞれ対戦をしてポイントを集める。1週間の予選期間で、どれだけ対戦したか、どれだけの勝率か……そういった成績を元に本選出場者は選ばれる。本選はトーナメント方式であるため、予選とは異なり負けたらそこで終わり。その分勝った時の喜びは大きい。ベスト4ともなればプレーヤーの中で一目置かれる存在になれるだろう。

 そんな本選が近づく中、まだ開かれていない、準備が進められている途中の大会会場に一つ、不審な影が近づいていた。

 欠けた月がほのかに辺りを照らす中、その影はなにかに引き寄せられるようにふらふらと、会場内に入り込む。施錠なんて無かったように慣れた手つきで扉を開けて。

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