第31話 救難信号
そして無事リクザメを討伐した僕らは、またヒナを先頭にダンジョンを進んでいた。さっきの戦闘を見て更に彼女に興味を持ったのだろうか、るーたんはこんなことを風華に尋ねていて。
「風華ちゃん、せっかくだしヒーラーについても教えてくれない?」
「えー……? 特に言うことないよ。ただ回復スキルも使えるってだけで……」
「風華、全部吐きなさい」
「うぇええー……おええぇ……」
『草』
『草』
『きたない』
『初歩的なボケやめろwww』
『やっぱ天才かこいつ』
それでしばらく風華は吐き真似を続けたが……これ以上ヒナの白い目に耐えられなかったのか「まぁヒナちゃんならいいか……」と、少し嫌そうな表情をしながらも、僕らに特殊スキルについて教えてくれた。
「私はね……普通のヒールも使えるんだけど、一瞬で最大まで回復できる特殊なスキルも持ってるんだー。瀕死状態でも多分生き返るよ」
「すごいじゃない。なんで隠そうとしたのよ?」
「いやぁ、それ使うとね……私、めっちゃ疲れて倒れちゃうんだ。多分だけど私の命、ゴリゴリに削ってるんだと思う……それに使うと数日寝込むくらい体調悪くなるから……アテにしないでね? ……ホントに。フリじゃなくて」
『草』
『でもそれ使えるのスゲェよ!』
『正直リターンの方が遥かにデカいと思う』
『あるだけで安心感あるしな』
『風華有能すぎひんか?』
『まぁ問題児だけどみんな有能だよ』
なるほど……それを使えば、風華が行動できなくなるかわりに、一人死にかけても復活できるのか。この世界にはいわゆる『ザオラル』的なスキルを持ってる人は非常に限られているから、風華がパーティにいるのはとても心強い。
ただ、本人は使う気全くなさそうだけど……。
「じゃあアタシが死にかけても使わないの?」
「ヒナちゃんなら使うよー……それで生き返ったヒナちゃんが『風華は命の恩人』だっていう事実を、一生引きずったまま生きてってほしいな……?」
「…………」
『無言で草』
『ヒナちゃんドン引きで草』
『もう怖ぇよこの人……』
『サイコパス診断テストかな?』
『なんだこの歪んだ愛』
多分だけど風華、本気で言ってる気がする……まぁ風華がそのスキルを使うことがないよう、僕も仲間は全力で護るつもりだけどさ。続けて、風華は僕らに向かって。
「ま、私は周りに気を配ったりするの無理だから、基本的には自分で回復してね?」
「ヒーラータンクとは思えない発言ね……」
──
ダンジョンに入ってから、二時間ほど経過した。最初は綺麗だと言っていた景色もだんだん鬱陶しくなってきたようで……露骨にヒナの口数は減っていた。るーたんはみんなのやる気を出すために、元気に話題を振っていたが……どうやら二人は既に、かなり疲れているようで。
「……ねむい」
「長いわね……どこまで続いてるのかしら?」
「まだ制覇した人いないしね。最深部行くまで、数ヶ月は掛かるかもね?」
「気が遠くなるにゃあ……」
力なく風華は言う。つられてヒナも足を止めてしまった。まぁここまで歩きっぱなしだし、そろそろ休憩してもいいんじゃないかな。近くに敵影も見えないし。みんなの注目を集め、「そろそろ休もう」と僕が口にした瞬間…………。
『ビー!! ビー!!』
突然、警報のようなブザー音が鳴り始めた。
「なっ、何の音!?」
『!?』
『あ』
『なになになに!!??』
『こわい!!!!』
『おいおいこれって……』
『まさか……』
どうやらそれは、るーたんのスマホから鳴り響いてるようで……今まで見たことのないくらい真剣な表情に変わった彼女は、冷静に僕らに説明して。
「……これは救難信号だね。近くで発信した人がいたら受け取るようにしてるんだ」
「じゃあヤバイんじゃないか? ひょっとしてイレギュラーでも出たんじゃ……」
「だね。急いで助けに行こう。ヒナちゃん、案内してくれない?」
「え、ええ。もちろんよ」
そしてるーたんはヒナにスマホを渡し、救難信号の情報を読み上げた。
「場所は……ここの一個下の層ね。発信者は…………ミナト?」
「……!!」
病弱な妹のためにダンジョンで秘薬を探していたお兄ちゃん、その様子を人気配信者に撮影されバズってしまう。~通話しながら片手でS級モンスター倒してて草~ 道野クローバー @chinorudayo
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