その後

「う、うーん……。稲垣パイセンは……」


 目を開けて辺りをうかがう。

 一見部室に見えるけど……。

 伏せていた机から体を起こす。

 ……あれ?


「稲垣パイセンがいない?」


 稲垣パイセンがどこかに消えてしまっている。

 ここは正しく、部室なのだろうか?

 時計はもう16時を指している。

 ……あの空間でそんな時間経っていたっけ?

 どうしよう。

 机にはネタ出し作業のための道具が並んでいるからネタ出しをやるべきか、稲垣パイセンを探すべきかなんだけど……。


「ここは稲垣パイセンを……」

「呼んだか?」

「稲垣パイセン、無事だったんですね! 良かったぁ……」

「……なんの話だ?」

「わたし達、変な部屋に閉じ込められていましたよね!? 覚えていますか!?」

「…………寝ぼけていたんじゃないのか?」

「そ、そうなんです? それにしては……」


 なんだか稲垣パイセン汗だくだし、顔もまだ赤いし、あの変な部屋での様子が残っているような……?

 とりあえず、おうちに帰さないとまずいよね?


「稲垣パイセン! 体調悪そうですから先帰ってください! 部室の鍵はわたしが閉めておきますので!」

「……少し運動をしてきただけだ。体調に問題はない」

「運動なんてこんな短期間でどうやるんです!? ここはわたしも付き添いますから帰りましょう! ネタ出しはおうちでやってくるんで!」


 そう言いながら机の上に広げた白紙のルーズリーフをファイルにまとめ、リュックサックにしまっていく。

 ここはわたしが帰らないと稲垣パイセンも帰らなさそうだ。


「俺は問題ないが……」

「今日は家でゆっくり休みましょう! 作業通話ならCONNECTコネクトでもできるので稲垣パイセンは休みながらわたしの進捗でも見張ってください! 休まないなら明日の西京都さいきょうと行きはなしですよ!」


 家では集中できなくても作業通話をしていればそれなりに進みはするし、稲垣パイセンからのありがたいアドバイスもいただけるからここでやろうとしていたことが帰宅後にもできる。

 そのおかげもあって動く点P転生が好評なのかもしれないけれど……。


「……わかった。お前の進捗は見るからな」

「はい! それはお願いします! じゃあ鍵閉めして鍵を返しに行きましょう! 稲垣パイセンは荷物、大丈夫ですか?」

「問題ない。行こう」


 辺りを見渡して問題ないことを確認する。

 鍵を閉めて職員室に行こう。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 職員室には珍しくわたしのクラスの担任であり、この文芸部の顧問の内田うちだ 紀彦のりひこ先生しかいない。

 内田先生は茶髪で強めの天然パーマと赤い四角のメガネが特徴的だからすぐわかる。

 ……今って中間試験終わりたてだから先生方は丸付けで忙しいと思っていたけどなんでいないんだろう?


「おう、文芸部コンビ。もう鍵帰しに来たのか?」

「そうですけど、職員室に内田先生しかいないの珍しいですよね。どうしたんですか?」

「いや~、変な霧が立ち込めたかと思ったら気絶しててさ~。気づいたら1時間経っていたな! 大抵の先生は部活をやっている生徒の様子を見に行ったな! お前達は無事そうで良かったぞ!」

「……あの、変な夢とか見ませんでした?」

「なんだそれ? 鹿野は見たのか?」

「見ましたけど……」

「先生、俺達は帰るので鍵は返します」


 稲垣パイセンがわたしの話を遮るようにして鍵を返そうとした。

 ……稲垣パイセン、あの空間のことを覚えてる?


「おう、そこにかけといてくれ。オレは忙しいからな! 鹿野は今回のテストの手応えはどうだったか? 勉強したか?」

「……勉強はそれなりにしましたけど、やっぱりダメでしたね! 英語!」

「オレの担当科目は簡単にしたつもりだぞ~? なにがダメだった?」

「英単語ですね!」

「1番大事な基礎の部分からじゃないか! 稲垣、せっかくだから鹿野の英語の勉強も見てやってくれ! 鹿野は入試での英語の成績が下から2番目だからな!」

「……わかりました。それでは鍵は返しましたので俺達は帰ります。内田先生、さようなら」

「じゃあな~」

「内田先生さようなら~! テストの丸付け頑張ってくださ~い!」

「おう!」


 内田先生に別れを告げて、わたし達は下校する。








 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 稲垣パイセンが1年用の下駄箱に来ようとしたところでいつも通り合流して学校から徒歩10分の和見駅を目指す。

 稲垣パイセンの様子はもうすっかり正常に見えるが、まだ心配だ。

 明日、体調崩さないだろうか?


「……鹿野、どうした?」

「いえ、稲垣パイセン大丈夫かなと」

「俺は問題ないと言っている」

「……なら、いいんですけど。明日、熱測ってきてくださいね。稲垣パイセンが倒れたらわたし、運べませんから」

「そうはならないから安心してくれ」

「うーん……、今日の作業通話、止めます?」


 稲垣パイセンに負担をかけるわけにはいかないし、明日のこともある。

 ここは止めた方が良いのかも。


「いや、やるぞ。家では捗らないんだろう?」

「そうですけど……」

「寝落ちするのも心配だからな。明日のこともあるから22時には寝てもらうぞ」

「……はーい。わかりました」


 というところで和見駅に着いた。

 稲垣パイセンと私は逆方向の電車だから改札通ってお別れだ。


「じゃあ、先輩。また後で。今日はどうします? 2部制にしますか?」

「2部制だな」

「じゃあ、そういうことで」


 改札を通った目の前に先輩が乗る1番線の電車があるので、わたしは2番線を目指しに別れた。

 今日は2部制の作業通話だから帰宅後から夕飯前の1部と入浴後から22時までの2部だ。

 なんとか一番最初にお風呂に入らないと。

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金の玉を60秒揉まないと出られない部屋に先輩と閉じ込められました! アルカロイ・ドーフ @alkaloy_dofu

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