金の玉を60秒揉まないと出られない部屋ってなんですか!?
「う、うーん……」
脱力感が失せていってはいるけど、あの霧は一体なんだったのだろうか?
「鹿野! 起きれるか!?」
「あれ? 稲垣パイセンいるんですか?」
ゆっくりと体を起こす。
あれ? わたしイスの上で気絶したんじゃ……、え?
ベッドの上??
「な、なにが起こっているんです!? 異世界転移しているんですか!?」
「いや、そうではないんだ……」
「……?」
稲垣パイセンの声が疲れている。
一体どうしたのだろうか?
とりあえずベッドの上から降りよう。
「……この部屋、不自然に白いですが? なんです? これ? 金の玉?」
ベッドと金の玉が置かれている台座以外はなにもない白い部屋だ。扉もない。
これってまさか、
「……セッ」
「ではない。あの玉が乗っている台座の文字を見てくれ」
「台座の文字、ですか」
……その前に稲垣パイセン、そっちの方知っていたんですね。
わたしはおかあさんがそのネタで18禁同人誌を描いたことをSNSのアカウントで報告していたので初めて知ったけど、稲垣パイセンはどこでそれを知ったのだろうか?
とりあえず金の玉が鎮座している台座に近づいてみよう。
「……金の玉を60秒揉まないと出られない部屋、ですか」
……
稲垣パイセン、挑戦したのだろうか?
「パイセンはこの金の玉、揉みましたか?」
「俺が触ると激痛が走るんだ。そもそも揉むことすらできない」
「……じゃあ、わたしが揉むしかないんですね。この金の玉を」
……稲垣パイセンが触ると激痛が走るような金の玉を揉むのには抵抗があるが、わたしがやるしかないだろう。
この金の玉、純金製でできていたら高く売れそうだけどそれを今からわたしの指紋でベタベタにするんだ。
「……やりますか」
わたしは台座から金の玉を慎重に手で持った。
まず、気にするべきことは……。
「……稲垣パイセン、大丈夫ですか。痛みとかはあります?」
「な、ないが……」
なんとなく様子がおかしいような気がするのは気のせいだろうか?
とりあえずとっととこの部屋を出るために、揉もう、金の玉。
力加減は、どうしたらいいんだろう?
とりあえず。
「ヴグッ……!」
「稲垣パイセン大丈夫ですか!?」
強めの力で揉んだら稲垣パイセンが苦しみ始めた。
……この金の玉にはなにか仕掛けがありそうだ。
なんだろう?
稲垣パイセンのどこかとつながっているのだろうか?
まさか男の人の金、の方ではないよね?
そんなことあるわけ…………、ないと信じたいけど……。
「大丈夫だ。とりあえず続けてくれ。じゃないとこの部屋から出られない」
「そう、ですよね。稲垣パイセンの書籍が来週発売されますからなんとかして出なければ!」
実は稲垣パイセン、『
来週には2作目となる作品の文庫本が出る、ものすごい先輩なのだ。
そんな先輩をこんな部屋に閉じ込めて人生を終わらせるわけにはいかない。
……わたしがなんとしてでもこの金の玉を揉み切ってこの部屋から出なければ!
金の玉を揉むのを再開しないと。
今度は弱い力で揉んだ方が良さそうだ。
じゃないと稲垣パイセンが苦しんでしまう。
「……この台座、タイマーあるんですね。カウントダウンしています」
「そ、そうか……」
59、58、57と金の玉を揉めば数字が減っていく。
これを0にすればこの部屋から出られるのだろう。
これで出られなかったら、といったような不安もよぎったが、まずは揉み切ろう。
──金の玉を!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「っ……」
「稲垣パイセン? どこか痛みますか?」
「いや、……だ、大丈夫だ。鹿野、続けてくれ」
本当に大丈夫なのだろうか?
残り30秒ではあるのだけれど、稲垣パイセンの顔がなんだか赤い。
……耐えてもらってこの部屋から出たら早くおうちに帰ってもらった方が良さそうだ。
一応明日は土曜日でごはんを奢ってもらう予定もあるけれど、またの機会にしてもらおう。
この金の玉が絶対に稲垣パイセンをおかしくしているから。
「後25秒ですから、頑張って耐えてくださいね。残り10秒前になったら1秒ずつ時間を知らせますから」
「……いや、そんなことは、しなくていい」
「辛い時間も終わりが分かった方がいいですよ?」
「大丈夫、だ。終わるのは、もうすぐなんだろう?」
「そうですけど……、あと15秒ですよ? 頑張りましょう! 稲垣パイセン!」
とにかく苦しんでいる稲垣パイセンを鼓舞しなければ。
わたしだけなんの苦しみもなくこの変な金の玉を揉んでいるけど、そのせいで稲垣パイセンは苦しんでいるのだ。
あっ!
後11秒!
「稲垣パイセン、数えますからね! じゅーう!」
「ま、待て!」
「きゅーう! はーち!」
「ぐっ、うぅ……」
「なーな! ろーく!」
「っ……」
「ごー! よーん!」
「…………」
稲垣パイセンが完全に黙ってしまったけど、とにかく揉みながら終わりを知らせるしか……。
「さーん! にー! いーち!」
「………………ぐっ」
「ぜろ!」
タイマーが完全に0になったのを確認して金の玉を揉むのをやめる。
稲垣パイセンの様子は……。
「き、霧が!」
「…………」
「稲垣パイセン!!」
わたし達は霧に包まれるのと同時に意識を失ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます