金の玉を60秒揉まないと出られない部屋に先輩と閉じ込められました!
アルカロイ・ドーフ
導入
「えっ、もう部誌ですかぁ!? 5月なのに!? 中間試験終わったばっかりですよ!?」
5月だというのに室内だろうとクソ暑くて湿気がむわむわしている世界を呪いながら冷房が効いている文芸部の部室に入ったら、いきなり部誌用の作品を作る必要があると不愛想な顔を
この高校、文化祭9月なのに……?
「文化祭が9月にあるのは知っていることだよな?」
「まあ知ってますけど、……印刷所の早割ですかね?」
「
「おかあさんが同人誌、と言ってもマンガなんですけど、早割にしないとおとうさんに怒られるってよく叫んでいるのを聞いていますから」
おかあさんはとあるマンガの二次創作の18禁のBL同人誌を描いていることは家中に知られている。
おとうさんはそれを受け入れた上で結婚はしているけど、早割が使える印刷所にしなさいとよくおかあさんに言っているのを1年に何十回も聞くのだ。
「……お母様の趣味を言うのは良くないのでは?」
「さすがに周りには言ってませんよ。それより部誌を作るんでしたっけ? なんで今から作るんです?」
「このまま制作を促さないと俺の作品集になる。この文芸部に幽霊部員が多いのはお前も知っての通りのことだが、……書くやつがいないんだ」
「そうですよね~」
この学校、
その強制加入のせいで文芸部に幽霊部員志望が多数殺到した結果、活発に動いている部員が稲垣パイセン部長とわたし、
数字上では60人は所属しているけれど、わたしの担任でありこの顧問の
精々内田先生がいないか覗きに来るだけだ。
内田先生、若いし緩くて生徒に馴れ馴れしいのもあって生徒には人気なので。
……まあ、先輩の作品集にもなっていいですけど、それは
「で、わたしはどれだけ書けばいいんですか? 短編の方が良いですよね?」
「当たり前だ。今鹿野が書いている動く点P転生はネットだけにしておけ」
「そんなことしませんよ~。学校中にそっちのペンネーム知られたら
動く点P転生というのはわたしが『
夢の中で時速40キロメートルで動く点Pに撥ね飛ばされたかと思ったらファンタジーな異世界に転生していたという出オチの作品だが、意外と好評で週2更新でまったりやらせてもらっている。
部誌用の作品を書くノルマが増えるとなると、動く点P転生のストックを切り崩しながら書く必要があることだが……。
「短編、何作品書けばいいんですかね? 文字数に縛りはあります?」
「いくらでも書いていいが、せめて10作品は書いてもらいたい」
「10作品!? それって期限はいつまでですか!?」
「7月初週の金曜日までだ。7月末に期末試験があるからな。それまでに作品がそのくらいあるといいだろう」
「エグいノルマですね……。ソシャゲやる時間はデイリーミッションだけに抑えて周回やりまくっていた時間をしっかり書く時間に回せばいけそうですけど、まず短編のネタから思いつかないとってところですかね」
短編のネタ、要は単発作品のネタだけどわたしの場合はつい長編に回せそうだなと思って長くなるんだよね。
短編となると最大で1万文字くらいで起承転結やるからな……。
そこが難しい。
「それは今からここで書けばいいんじゃないか?」
「なんだかんだでこの部室、捗りますからねぇ」
動く点P転生の大元もこの部室で思いついたものだ。
入部テストみたいなノリで書かされて、稲垣パイセンに提出した4月が懐かしい……。
「それじゃ、残りますか。今は午後15時で最終下校時間が17時半までとなると2時間半、ですか。それまでに10作分のネタ、思いつくんですかね?」
「ネタ出し自体は今月中を締め切りとして6月から書き始めるのはどうだろうか?」
「6月中に10作近く書けというのは鬼畜ではないのでしょうか!? でも早割の方が大事ですもんね……」
「ちなみに文字数の目安はどのくらいにしている?」
「最大1万字ですかね? それより短くすることを前提にはしていますが、文庫本10分の1ですからねぇ、最悪作品数少なくてもそれで誤魔化しが効くかなって思いまして……」
「そのくらいならいい。早速進めてくれ」
「了解です!」
椅子に座り、リュックサックに入れておいた小説執筆用のルーズリーフをまとめたファイルと、印刷以外は白紙のルーズリーフを3枚くらい取り出す。
「さて、やりますか!」
「……鹿野、外の様子がおかしくないか?」
「外、ですか? え~! 真っ白じゃないですか!? 霧なんです?」
「そう見えるが……、霧、部室に入ってきたぞ」
「や、ヤバくないですか!? 煙い臭いはしませんけど、吸わないようにしないと!」
「そうだな」
持っているハンカチで口元を覆う。
……でも、この霧が入っている時点でわたし達ってもう手遅れでは?
……なんか、眠気が。
「鹿野!!!」
意識が保てなくなりイスの上で脱力してしまう。
……これ、立っている時じゃなくてよかったな。
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