最初の勝利は、呆気ない。

「な……なんじゃこりゃぁ!?」


 高くなった視界に、近くの廃ビルの窓ガラスに映る自分の姿を見て俺は声を上げる。


 全身がしっくりなブラックに真っ赤な瞳……全体的に流線型なバイクの面影が残る装甲が装備されている。バイクから変形したとはとても思えないほどの変わりっぷりだ。


 同時に、俺はあまりにキャパシティを超える出来事に一瞬思考を放棄したくなった。


 そうだろう。ただでさえバイクに転生したと言う受け入れがたい事実があるのに、そこからさらに特撮ヒーロー的なアレに変身とか……精神がもたない。


 俺は答えを探し求めるあまり、巻き込まれた側のおっちゃんに対して荒々しく声を上げる。


「おいおっちゃん!?何なんだこれは!?どうなってやがる!?なんだコレは言ってみろ!!」

「し、知らねぇよぉ!コッチが聞きてぇよぉ!」


 そりゃあそうだな。


 おっちゃんの目線からしたら突然クトゥルフチックなアメーバに襲われそうになった上、突然バイクが動き出して変形したんだもんな。訳わかんねぇよなこの状況!


 ……しっかりあれだな。この姿……人型だからバイクの時よりもなんかしっくりくるな。四肢があるからだろうか?


 たった3日間バイクになってただけなのに人型の姿がこんなにうれしく思えるとは……当たり前にあるものにはやっぱり感謝しなくっちゃな。


 俺がしみじみとそう思いながら腕を組む……そういや何かを忘れているような……?そんな思いと共に、俺にアメーバの触手が飛んでくる。


 そうだ、何を呑気してたんだ俺は……明らかにヤバいアメーバ野郎がいるんじゃないか!?……俺は迫りくる触手を見る。しかし、なぜだろう……その動きはとてもスローに見える。


 俺は咄嗟に手で払うように触手を叩くと、触手は俺からそれて地面に突き刺さる。


「っ!?」


 俺はその光景を唖然と眺める。まさかこんな力があるとは……まるで本物の特撮ヒーローだ。男子心がくすぐられるのを感じる。


 やっぱり……俺はただのバイクに転生した訳ではないようだ。俺の中に、予想が生まれる……コレほどの力があるのなら、目の前のアメーバを倒せるのではないか?


 実に馬鹿げた予想だ。よしんば勝てる相手だとしても、ここは安全を取って逃げるのが得策……戦うなんて冗談ではない。


 だが、アメーバは考える間にもにじり寄ってくる……


 時間はない。少し予定は狂ったが……コレなら、目の前のアメーバ相手にもなんか行ける気がする!って奴だ。


 俺は少しの恐怖と、大きな期待を持って、拳を握りしめてファイティングポーズを取る……


 しかし、どうにも違和感が拭いきれない。


 俺は前世では体術の一つもやって来なかったズブの素人だ。なのに、体に染み付いたように戦うための動きが再現できる。


 俺は、そんな考えを振り払うように目の前のアメーバへと拳を振り下ろす。


「デリャァッ!!」


 アメーバも対抗してその身体を触手の様に伸ばす……だが、打ち付けられた拳に触手は砕け散り、アメーバの破片がビルや地面に飛び散る。


「うおっ、強ぇ……ッ!!」


 俺は目の前のアメーバに拳を全力で振り上げ振り下ろし続ける。所謂ラッシュと言う奴をお見舞いしてやる……どうやら、スピードも俺の方がアメーバよりも幾分も早い様だ。


「オラオラオラオラオラオラァッ!!」


 連続で拳を叩きつけると、アメーバの体はどんどんとすり減っていく……アメーバみたいな形の割に、再生能力みたいなのは無いみたいだ。アメーバは無力にも届かない触手を伸ばし続けている。


 俺は無我夢中で拳を打ち付けていると……やがて、アメーバの中に一つの光る石を見つけた。俺は、何も考えずにその石にも拳を打ち付けると……石は簡単に粉々に砕け散る。


 すると、アメーバは声の一つも上げずにその場で灰になって消え去る……あんまりにも呆気ない終わりに俺は思わず言葉を漏らす。


「あっ?もう終わりかよ。」


 もう少しやれそうな感覚はあるのたが……まぁ、あっけない方が良いだろう。楽に終わるのに越した事は無い。


 と言うか、この姿になったら喋れるんだな。じつにややっこい。バイクの姿でも喋れるようにしとけや。


 ……バイクが喋ったら余計に追われる事になるな。

 っとそれよりも……


「おっちゃん、大丈夫か?」

「あ、アンタ一体何なんだ……?」


 どうやら、あのアメーバを倒したからか、少しだけ警戒心を解いてくれたみたいだ。そして、なんなんだ……とは、少し困る質問だ。俺自身もわからない。


「俺は……」


 俺はそう静かに呟きていいすくんでいると、何処からか風を切る音を感じる……足音のようなものだ。


「誰か来るのか?」


 この状況を見られてはまずい。どんな勘違いをされるかわからない。旗から見たら俺はバイクの怪人だ。


 俺は咄嗟にその場から離れる……脚力も強化されているのか、すぐにその場から逃げ切ることができた……しかし、あのアメーバは一体何なのだ?


 考えれば考えるほどわからないことだらけだ。兎も角これからどうすのか考えなければ。


 バイクとして生きていくことも考えたが、こんな訳のわからない、機種もわからないバイク、拾ってくれるやつなんかいない。


 ならば……あの人型の姿で過ごさなければ……ワンチャン其の辺の広場とかでコスプレって体ならいけるか?夜はバイクになってそのへんに止まれば良い……


 俺は只管にこれからどうするのか思案しながら……その道を歩く事にするのだった。



■■■


 先程……あのバイク……またの名を、バルナイザーがいた場所。そこでは、バルナイザーが逃げた後こんな事が起こっていた。


 アメーバに襲われていたおっちゃんが、足を竦ませてその場に座り込んでいると……突然上空から二人の少女が降り立った。


 おっちゃんの前に降り立つ少女達は、実に奇妙な姿格好をしていた。体のラインが浮き彫りになる様なボディスーツを身に纏い、その上にメカニカルな鎧をつけている。


 片方はオレンジ髪で、鎧は銀色にオレンジの輝くライン。元気そうなイメージを持てる娘だ。武装は比較的重装甲……その背には巨大なアックスが背負われていた。


 もう片方はスカイブルー色の髪に装甲をもっている。ハイライトが少し薄くクールな印象を持てる。武装はサイバネティックな大弓を背に携えている。


 一見してコスプレか?と思わせるが、その武装の重厚感が偽物とは到底思えない。オレンジ髪の娘が静かにつぶやく。


「ホントだ……何もない、イグザムの反応が消えたって本当だったんだ。」

「アカリ。」


 すると、スカイブルーなカラーリングの娘がオレンジ髪の……アカリの名前を呼ぶ。すると、近くで唖然としていたおっちゃんを指差す。


 その様子から、とても信じがたい物をみたような目をしている。


「この人、何か見たみたい。聞いてみる。」

「えぇ……アイ。あれやるの?」


 アカリが苦言を呈するが、止めるような真似はせずに事の顛末を見守る。スカイブルー髪の……アイと呼ばれた少女は、おっちゃんの目をしっかりと見つめる。


 おっちゃんは何だ何だと言う思いと、美少女に目を合わせられたので緊張で体を強張らせる……だが、次の瞬間おっちゃんの体は脱力され、目からハイライトがなくなる。まるで操り人形の様だ。


「……あい変わらずすごいわね。アイの催眠魔術。」

「ん、たいした事ない……それよりも。」


 すると、アイはおっちゃんへいくつかの問いかけを行う。


「あなたはここで何を見たの?」

「……口のついたアメーバの化け物」

「やっぱりいたんだ……イグザム。」


 アカリは静かにイグザム……あのアメーバの化け物の総称を呟く。


「……それと、その化け物を倒したバイクの怪人」

「はっ?バイクの……怪人?」

「……その怪人についてもっと詳しく教えて。」


 アイがそう問いかければ、おっちゃんはまたさらりと答える。


「……回収したバイクが突然動き出して、変形して怪人になって、アメーバの化け物を倒していった、その後は何処かに去ってしまった。」

「アイ……嘘……ってことは……」

「私の催眠魔術に掛かって嘘をつけるなんてありえない。」

「う〜ん……訳わかんない!!私たち以外にイグザムと戦っている奴が居るって言うの?」

「わからない、あるのは……そのバイクの怪人がイグザムを倒した事実、それだけ。」


 アイはそう言うと、おっちゃんは一粒の薬を差し出して飲ませる……すると、おっちゃんは気絶するようにその場に眠りこける。


「……記憶処理完了。」

「よく分かんないけど、イグザムを倒したって事は、そのバイク怪人、良い人なのかな?」

「そう断言するには情報が足りない。それに、決定するのは上層部。」

「もぉ、アイはあい変わらず真面目だなぁ……!


 彼女達の名は『篝野カガリノアカリ』、そして『不知火シラヌイアイ』


 戦乙女――ヴァルキューレと呼ばれる少女であり、あのアメーバの化け物の様な……イグザムと呼ばれる怪生物と戦う戦士なのだ!





 

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凌辱エロゲな世界に変身するバイクに転生したので、敵は纏めて轢き殺します。 土斧 @tutiono

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