昧舞瞑璃

エリー.ファー

昧舞瞑璃

 目が欲しい。

 カップが欲しい。

 トイレが欲しい。

 虹を見たい。

 もう、何もいらない。

 いや、まだ必要だ。

 また、必要になる。

 誰か助けてくれ。

 お願いだ。

 誰かを僕にしてくれ。

 僕と誰かの間に抱えきれないほどの愛を落としてくれ。

 そうしたら。

 皆で。

 自殺するから。


 妄想じゃない。

 自分の中にある世界をここで作り出す。

 金じゃない。

 自分が知っている、今をここで作り出す。

 今じゃなくて、明日のために。

 これから、じゃなくて、今日のために。

 今と僕が作り出したドラマの中に、自分を作り出して呪いにさえしなければ大丈夫だろう。

 見事なくらいに、私たちは、自分の生き方を他人に押し付けてばかりだが、それでも満足だった。

 十分だったと言ってもいいだろう。

 何故か。

 世界がここから壊れていく様を見つめ続けるしか生きる意味がなかったからさ。

 寂しさの中に、自分を閉じ込めて、今という時間が永遠に続くと思っていた。

 何もかも上手くいくとは思っていなかったけれど、見捨てられることでしか得られない経験もある。

 この感覚の中に、今の自分を落とし込んでいることがどれだけの意味を見出すのかは全く理解できないけれど、もうすぐ、僕は、僕ではない何かになるよ。 

あぁ。

そう、思う。

 気が付けば、僕は、僕になっていた。

 私、ではない。

 私を捨てて、僕になっている。

 いや、その前が僕だったのか。

 いやいや、そのもっと前は私だったのか。

 思い出せない。

 でも。

 思い出せない。

 ということは。

 思い出す必要がないということに他ならないのだ。

 この人生には、視界に映せないものが多すぎる。

 今は、宝石箱の中の人生。

 これからは地面の上に横たわる、マネキンのような薄汚れたクライマックスだ。

 自分のことを、自分が一番よく分かっているのだから、何の問題もない。

 大丈夫だ。

 今から。

 今から僕は、僕以外の人間を潰して、上手く生きていくつもりだ。

 宝石箱の中にいる誰かではない。

 宝石箱を眺める誰かになるんだ。

 宝石なんて、重要じゃない。

 本当に重要なのは、宝石に価値を付けた人間だ。

 だから、宝石に価値をつけることができる宝石になるしかない。

 泡に抱かれて、紫色の海辺で、たった一人で死んで行く人生を選ぶつもりだ。

 物語は始まった。

 もう止めることはできないだろう。

 何もかも、自分らしさなんて言葉で覆い隠すことはできないが、黒い光が僕たちを照らす頃には、僕たちは、僕たち以外の何かになれていることだろう。

 準備はいいだろうか。

 もう二度と出会えない旅が始まろうとしている。

 答えは欲しいか。

 あったところで、信頼に足るものではない。

 水辺で、僕たちは遊ぶ。

 キーボードの中に見える宇宙を眺めて死ぬ。

 一切合切。

 何もかも。

 この世の果てに置いていく。

 悲劇と喜劇と、悔しさに紛れ込ませて自分という人格から始まった物語に、ほとほと愛想が尽きたと叫びたい。

 いずれ。

 僕たちはいずれ。

 自分自身ではない、何かになっていくだろう。

 ただのエンタメに本気になれるようなバカではない。

 もちろん、これは、ナルシズムである。

 残念ながら。

 バカになっていい瞬間など存在しない。

 このメタ的な視点なしでは生きづらいのが人生の面白い所ではないのか。

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