第43話 クリスティア

「……そうか、あなたが助けてくれたのね?」

 彼女は俺の方を見つめ、感謝の表情を浮かべた。


「まあ、結果的にはな。けど、一人でやるにはちょっと相手が悪すぎたな」

 俺はそう言って、手を差し出す。彼女は少し戸惑いながらも、その手を取った。


「俺は零。たこせんにしたのがアックーだ」

「かっか、俺様がアックーだ。よろしくな、嬢ちゃん!」

「嬢ちゃんじゃない!私はクリスティアって名前があるんだから!」彼女は憤慨しながら、そう言い返してきた。

「ていうか、たこせんって何?」


 蒼いドレスを纏い、レイピアのような武器を持つクリスティア。白い長い髪がトレードマークの美少女だが、ちなみに胸はない。


「私はS級モンスターを倒して、あいつらを見返してやるんだ。追放した勇者パーティに」

 その言葉には、俺と似た復讐の念が感じられた。


「へぇー、いいじゃん。その悪感情、良い味出してるぜ」

 アックーが口を挟む。さすが悪魔、そういう感情が好きなのだろう。


 クリスティアは少し考えるような表情を見せた後、俺に向き直って口を開く。

「あの……助けてもらったお礼として、お願いがあるんだけど、いいかな?」


 俺が何か言う前に、彼女は恥ずかしそうに言い足した。

「ま、まさか、私の美しい体を要求するつもりじゃ……!」

「いや、ちげーよ!」俺は慌てて否定した。

「その流れ、前にもあったし!俺が頼もうとしてたのは、ただ街に連れて行ってくれってだけだよ」


 クリスティアはほっとしたように肩を下ろし、少し赤面しながら「そ、そう……それならいいけど」と答えた。


「全く、変な勘違いするなよ。街まで頼むぜ」


 俺たちは街へ向かって歩き始めた。途中、馬車を引く商人が出店を出していた。そこで、ケバブに似た、ナンのような生地で包まれた見たこともない野菜がたっぷり入った食べ物を売っていたので、俺は二人分を買った。


「ほら」

 クリスティアにも渡そうと手を差し出したその瞬間、「さんきゅ」と言って、アックーが丸ごと俺の分を飲み込んだ。

「……あっ」

 俺は思わず声を上げたが、もう遅い。


「俺の分、どうぞ」

 仕方なく、自分の分を彼女に渡すことにした。


 クリスティアは、驚いたように俺を見たが、やがて微笑みながらそれを受け取った。

 そして、一口食べると――

「美味しい!」

 彼女は目を輝かせ、まるで子供のように美味しそうな顔で食べていた。


 街の近くまで来ると、装備を整えたパーティが俺たちの横を通り過ぎていった。だが、その中の一人が足を止めて「クリスティア?」と声をかけてきた。

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