第42話 S級のモンスター

 ルーネはこの国に残り、女王として国を建て直すことを誓った。俺は女神への復讐を果たすために旅を続ける。彼女との別れの時が、静かに近づいていた。


 彼女のために、俺は何も言わずに去る。それが、彼女にとって最善の道だから。


 だいぶ歩いた。あれから何日経っただろうか。俺は森の中をひたすら歩いている。どこに行く当てもなく、ただ進む。なぜなら、道がまるで分からないからだ。


 突然、森がざわめき出す。何かが近づいている。地面が震え、だんだんとその振動が強くなっていく。

「なんだ、あれ?」

 目の前に現れたのは、まるで巨大なタコのような生き物だった。8本の足を器用に動かしながら、何かを追いかけている。


「あれはオクトアズ、地上の大災害と呼ばれているS級モンスターだ。寝ていたところを起こされて、かなりご機嫌斜めみたいだな」

 アックーがそう説明する。


「そうなのか……って、あれ、こっちに向かってきてないか?」


「うん、そうだな。よし、少し力を貸してやろう。武器を作れ。刀がいいだろう」


「いいや、俺は物理しか使えない」


「はあ?」

 アックーは一瞬呆れたような声を上げたが、すぐに気を取り直す。

「じゃ、いいさ。それで」


 そう言うと、アックーは俺のスティックに移動し、黒い板のようなものに変化し始めた。それは次第に大きくなり、オクトアズを超えるほどの巨大さに膨れ上がる。そして、その板がオクトアズの頭上に落ちると――「タコせんべい」のように押し潰してしまった。


「……タコせん、出来上がりってわけか」

 俺は呆気に取られながらその光景を見つめた。オクトアズは完全に潰されていた。


 ふと視線を移すと、追いかけられていた女の子は、ギリギリのところで避けていたものの、気を失って倒れていた。


「よし、助けたみたいだな」

 俺は肩をすくめ、気を失った少女の元へと歩み寄った。


 シュルリとアックーが俺の腕に収まる。しかし、同時に全身に痛みが走る。

「言い忘れていたが、反動がある。大きな力には代償が必要だからな」

「早く言えよ……」



 俺は、気絶して泡を吹いている少女の隣に座り込む。しばらくして、彼女がゆっくりと目を開けた。

「ここは……?私は……?」

 混乱している彼女に、俺は声をかける。

「気がついたか?」


 彼女は少しぼんやりした表情のまま、自分の状況を確認し始めた。

「私は、オクトアズを倒そうとして、一人で巣穴に……」


「一人でオクトアズを?無茶するな」

 俺は呆れつつも、その勇気には感心せざるを得ない。S級モンスターに一人で挑むなんて、尋常じゃない気合だ。

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