第33話 森の中へ

 森を歩く中、ルーネの様子が徐々におかしくなっているのに気づいた。魔力が漂うこの場所の影響だろうか。

「ちょっとだけ気分が……」

「大丈夫か? この森だし、またお姫様抱っこをして……」

「いえ、大丈夫です。お気になさらず!」


 やけに強調して断るな……そんなに嫌だったのか? 俺の持ち方が悪かったのか、それとも速度の問題か? 女子ってよくわからないな、と俺は思いながら進んだ。


 霧が濃く、辺りは不気味な雰囲気に包まれている。触れるとヤバそうな木の枝が、「ようこそ」とでも言うかのようにこちらに向かって伸びてくる。俺はスティックでその枝を弾きながら進んだ。


 すると、木の影から蜃気楼のように現れたのは、明るい光をまとった存在だった。人間ではない。体の一部に赤いバラを咲かせた、人間の姿をした魔物だ。その美貌は、森に足を踏み入れた者を虜にしてしまう。


「あっ……」

 思わず見つめてしまった俺の口を、ルーネが「静かにしてください」と小声で抑えた。危うくその魔物に気づかれるところだったが、ルーネがすぐに対応してくれたおかげで、回避できたようだ。


「あれは、森の誘惑ドライアドという魔物です。見つめられたら最後、赤いバラの養分となり、死んでしまいます」


 ルーネが必死に説明する中、俺の心臓は一気に跳ね上がった。赤いバラの魔物――それに目を奪われた者は、命を吸い取られるということか。


 周囲では、緑色の胞子を放ちながら歩き回るキノコが、うねうねと動いている。カビのようなそれを木に擦りつけては、次の木へと進んでいる。森の空気はさらに重たくなり、何が起きてもおかしくない不穏な気配が漂っていた。


周囲では、緑色の胞子を放ちながら歩き回るキノコが、うねうねと動いている。カビのように木に擦りつけては、次の木へと進んでいく。森の空気はますます重たくなり、何が起きてもおかしくない不穏な気配が漂っていた。


「これは木に寄生して育つカビキノコです。害はないですが、繁殖率が非常に高く、駆除対象の魔物ですね」とルーネが説明する。


俺はキノコたちを見つめながら、

「害がないならいいが、あんまり気分が良くないな……」とぼそっとつぶやいた。



 ふと木の根が勢いよくこちらに伸びてきた。ルーネの足が絡まり、そのまま逆さに宙吊りにされてしまった。ルーネは片手でスカートを必死に押さえ、逆さまになった状態で太ももがあらわになりながらも、なんとか身を守ろうとしている。


「で、できれば、見ないで……た、助けてください!!」


 そんな無茶な……。俺は少し視線をそらしつつ、急いで彼女を助ける方法を考えた。宙吊りの状態では危険すぎる。すぐに木の根をスティックで叩き、なんとかルーネを解放しなければならない。


「わかった!今、少しだけ耐えてくれ!」

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