第32話 二度と、頼みません!!
――出発の時。
準備を整えた俺たちは宿を出て、静かに村を後にした。早朝の空気はまだひんやりとしており、村の家々からはほとんど動きが見られない。陽が昇り始めたばかりの空には、かすかに雲が広がり、澄んだ青さが美しい。
「さあ、行きましょう」
ルーネは俺に手を差し伸べる。俺はその手を取って、一緒に歩き出す。
「森に行くのはすぐですよ。あなたの足なら」
「へっ?」
「あの距離を走れるなら、歩くよりも走って行ったほうが断然早いと思いまして……だから、わ、わたしをお姫様抱っこして、その……」
「わかった」
そういうことなら早く言えよ。確かに、俺が走った方が早く着くし、追っ手が来る可能性もあると考えれば、賢明な判断だ。納得しつつ、俺はルーネを軽々とお姫様抱っこし、走り出す準備を整えた。
「じゃあ、しっかりつかまってろよ。行くぞ!身体強化!!」
「あ、あの、ちょっっ!いやあああぁぁぁぁぁぁ!!と、止めてぇぇぇ!くだっ」
草原に響き渡るルーネの叫び声。それは喜びやテンションが上がったときに出るものではなく、恐怖に近い悲鳴だった。
土煙を立てながら、俺は全速力で草原を駆け抜ける。外から見れば、俺の姿は魔獣か猛獣のように映るだろうか? それとも超人か? そんなことを考えながら、あっという間に森の入り口にたどり着いた。
禍々しい形で曲がりくねった木々が、アーチを作っている。まるで「地獄へようこそ」とでも言わんばかりの不気味な雰囲気だ。アトラクションのテーマパークに来たような錯覚を覚えるほどで、まさに異世界の森といった感じだ。
隣を見ると、ルーネはまるでコーヒーカップに乗って頭がクラクラしているかのように混乱していた。顔色が悪く、その後、嘔吐しながら苦しげに言った。
「二度とこのようなことは頼みません! わ、わたしの求めていたものとは、お姫様だっことは、まったく違っ!」
そう言うと、さらにもう一度嘔吐してしまった。彼女の苦痛が伝わってきて、少し申し訳なく感じる。
「回復」
俺は迷わず彼女に「回復」をかけ、体調を整えてやる。少しずつ彼女の顔色が戻ってきたのを確認しながら、俺たちはゆっくりと森の中へと歩き出した。
「さあ、行こうか」
今度は俺が彼女に手を差し伸べ、しっかりと握りしめた。ルーネも微笑みながらその手を取る。
俺たちは森の中へと一歩を踏み出した。
何が待ち受けているのか、それは強者ゆえの傲慢さなのか、あるいは未知への楽しみなのか、まだわからない。
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