第31話 特別な関係にはまだ
「おい、ルーネ起きろよ」
「お、お父様……」
誰だよ、お父様って。俺はお父様じゃないぞ、と困惑する。ふと我に返ったルーネは、周囲の状況を把握し、恐怖に震え出した。
「ありがとうございます……。人攫いに遭うとは、情けない話ですね。ところで、どうやってここに?」
「それは秘密だ」
俺は彼女を守護するという約束で動いただけだ。決して好意があるとか、やましいことがあったわけではない。決して見返りを求めているわけではない……たぶん。
俺たちはゆっくりと宿へ戻る。その道中、特に何事もなく、平穏な時間が流れた。村に着くと、なんだか賑やかになっていた。どうやら今日はお祭りの日らしい。供物を天に捧げ、女神様からの祝福を受けられるという特別な日だという。
俺はその話を聞いて、嫌な気分になり、宿屋に籠ることにした。
ルーネは俺と同じ部屋にいる。俺の隣に腰掛けると、肩にそっと頭を預けてきた。
「少しだけ、少しだけで良いので甘えさせてください」
ここで「ノー」と言うやつはいないだろう。俺も、そう答えるしかなかった。
「ああ」
俺の肩に寄り添うルーネの姿は、普段の強さとはまた違う、柔らかな一面を感じさせた。
「あなたは強い。そう思っていました。だけど違いました。零も、私と同じように心を持つ者なのですから、こういう時くらい、互いに心を癒しても良いのではないでしょうか?」
彼女の言葉に、俺は少し戸惑いを覚える。
「俺は……女神が許せないんだ。心の底から、脳裏に焼きつくほど、それは日に日に強くなっていく気がする。だから、心を癒す方法が俺には……」
そう言いかけた瞬間、ルーネの柔らかな声と温かい体が俺を包み込んだ。
「私があなたと一緒にいます。あなたの盾となり、刃となります。だから、今日だけでも、感情を出しても良いのですよ」
その言葉に、抑えていた感情が溢れ出した。これまで自分の中に押し込めていたものが、一気に解放されるような感覚だった。かつての俺が経験したことのない、包容力――これが、誰かに向けられる愛情というものなのか? 俺にはまだはっきりとはわからなかった。だが、ひとつだけ確かだった。
――なんて暖かいんだろう。
ルーネの存在が、俺の中で冷え切った部分を少しずつ溶かしていくような、そんな感覚だった。
そして、俺は深い眠りについた。涙が頬を伝いながら、優しく頭を撫でられる感触があった。彼女の手の温かさが、心の底から俺を癒してくれる。
これが、久しぶりに感じる安らぎなのかもしれない。
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