第30話 夜に紛れて

 ――宿にて。


「さて、これからは森に入るのか?」

「そうですね。森に入る前に、一応確認しておきますか?」

「そうだな」


 魔性の森 マグナフォレスト

 この森は、魔女が住むとされる危険地帯だ。森に足を踏み入れる者は、死神と共に進む覚悟が必要だと言われている。魔女の実験体として改造された魔獣が生息しており、他の魔物すら寄り付かない。たとえ何かが生息していても、それは強者である可能性が高い。森は魔女の魔力に浸され、蜃気楼しんきろうを生み出して人を惑わし、マンドラゴラやラフレシアなどの幻惑を見せる生態植物せいたいしょくぶつが、人間を養分にして森の栄養源となっている。


「進む時は気をつけてくださいね」


 ルーネの忠告に、俺は心の中で一層の覚悟を決めた。この森は危険だが、避けるわけにはいかない。



「もし幻惑にかかって、我を忘れた時には助けてくださいね」

「ああ、俺も同じことを思っていた」


「もし幻惑にかかって我を忘れた時には、助けてくださいね」

「ああ、俺も同じことを思っていた」


 明日は出発の時だ。今日は早めに寝よう、そう思っていた。しかし、トラブルが起きた。

 夜、俺が風呂に入っている隙に、ルーネが何者かに誘拐され、いなくなっていたのだ。


 俺は辺りを見回し、何か手がかりが落ちていないか確認したが、何もなかった。そこで、ブレスレットに組み込んでいた位置情報リンクを使い、ルーネの居場所を特定する。


「さて、ショーの時間だ」


 俺は身体強化の魔法を使い、全速力で走り出した。すると、遠くに馬を引き連れた騎士団のような集団が見えてきた。檻のような場所に閉じ込められ、意識を失っているルーネを発見する。


 心の中で決意する。こいつら全員、一人残らずボコ殴りにしてやる、と。俺は騎士団の後を追い、隙をうかがいながらその距離を詰めていった。


 心の中で決意を固め、俺は騎士団を追いながら隙を伺っていた。すると、彼らの会話が耳に入ってきた。


「兄貴、情報通りに良いエルフの女を捕まえましたね。これで俺たち、人攫いギヴテイカーも人気になるってもんですよ」

 先頭にいる痩せた男が得意げに言っている。

「バカやろう、エルフじゃねぇよ。あれはエロフだ。それもかなりのな」

 そう言い、周囲の奴らが夜空に響く汚らしい笑い声をあげる。


「それは良いたとえだ。俺もその会話に混ぜてくれよ」

 俺が不意に声をかけると、周囲は驚いて、騎士団の一行は急停止した。


「一旦止まれ! 各自、戦闘態勢に入れ! 守りを固めろ!」

 男たちが焦りながら指示を出し、武器を構え始める。だが、彼らにとっては、すでに手遅れだ。俺の心の中にある怒りは、もう止められない。


「ぐあっ!!!」

「どうした、スレッド!? ……し、死んでる!」


 闇に紛れて俺は「暗殺者」のスキルを使い、影のように敵を倒していく。何も気づかないまま、彼らは次々と沈んでいく。

「あ、あにっ!?」


「タキア!返事をしろ!くそっ、いったい何が起きてやがる!?」


 その混乱の中、俺は冷静に行動を続けた。恐怖に震える彼らに容赦はない。


「お前らが知ることはない」


 そう言いながら、俺は隊長と思われる男の背後に忍び寄り、最初で最後の言葉を告げた。そして、その瞬間、彼もまた闇に沈んだ。

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