第29話 旅の出会い

 ーー早朝。

俺たちは朝日に照らされながら、ゆっくりと街を後にした。

「ここから、近くの村まで行き一泊したのちに森に入ります。この森を通った方が身を隠せると思いますが、どうですか?」


「良いんじゃないか。案内は任せるぜ」


 前を歩くルーネの後を、俺はゆっくりとついていく。どこまでも広がる草原に、心地よい乾いた風が吹き抜ける。太陽が雲の隙間から「おはよう」と顔を覗かせ、時折また隠れていく。


「あーあ」と大きな欠伸をすると、ルーネがこちらを見てきた。

「眠れなかったのですか?」

 彼女が髪をかきあげる瞬間、左手につけられた貝殻のブレスレットが目に入った。


「ああ、朝は苦手だ」

「そうですか。早く起こしてしまい、申し訳ありません」


 そんな会話をしながら歩いていると、後ろから馬車の音が近づいてくるのがわかった。ガラガラと車輪が地面を打つ音が響き、馬の足跡が力強く地を踏みしめているのが聞こえる。


「どけどけっ!」


 走り去る際、ちらりと見えたのは、檻のようなものだった。

「あれは奴隷ですね。エルフなどの種族は高値で売買されることが多く、ああいったことがよくあります」


「ルーネは助けたいと思わないのか?」


「いえ、私は助けたいとは思いますが、助けない方がその子のためかもしれませんし……」


 彼女の返事は予想外に曖昧だった。俺は、助けたいと言うと思っていたが、確かに助けない方が良い場合もあるのかもしれない。

 現実はそんなに単純ではないことを、改めて思い知らされる。


 馬車が段々と遠ざかり、小さくなっていくのを見つめているうちに、俺たちは少し休憩を取ることにした。木陰で一息つくため、俺は草の上に寝転がり、ゆっくりと目を閉じた。風が心地よく、体が自然にリラックスしていく。


「私も横になりますね」

 ルーネも隣に横たわり、静かな時間が流れた。心地よい風が吹き、二人でこの平穏なひとときを静かに味わっていた。


 しばらく昼寝をした後、昼食の時間となった。食べるのは、あの看板娘がこっそりくれたパンの残り。たとえ残り物でも、俺たちにとっては貴重な食料だ。少し硬くなったパンを手に取り、水袋から水を口に含んで、乾いた口の中を潤しながらパンを食べる。


 質素な食事でも、旅の途中ではこれが十分だ。


 俺たちは出発の準備を整え、できるだけ今日は近くの村まで歩くことに決め、足を早めた。道中、すれ違う冒険者に軽い挨拶をしたり、旅をしている商人から食料をお金と交換してもらったりしながら、目的地を目指す。


 夕暮れ時、ようやく村に到着すると、まずは宿屋を探すことにした。村人に話しかけると、「あ、宿屋はまっすぐ行って、左に曲がって、三番目の家が宿屋だよ」と、親切に教えてくれた。俺たちは「ありがとう」と礼を言い、指示通りに宿屋へと向かった。

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