第28話 ふ、服が!
「なんだか疲れちゃったので寝ます」
「ああ、そうしてくれ」
そう言いつつも、ルーネが服を少しはだけた状態で寝ていたのが気になり、俺は何も言わずにそっと毛布をかけた。これが紳士としてできる最大の配慮だと思いつつ、俺は固い床に寝ることにした。床はかすかに軋む音を立て、隙間から冷たい風が吹き込んでくる。雨風が防げるだけで十分な部屋だが、ベッドがもう一つあればいいのに、なんて思いながら目を閉じた。
朝になり、悲鳴とともに目を覚ました俺は、目の前にルーネの裸を見てしまった。
「な、なんで私裸?な、なんでしょうか?」
彼女の身体が頭から離れない。俺はその考えを振り払うようにして、ルーネと一緒に外の街へと出かけることにした。
「今日は服を選びましょう。さすがにちょっとアレですので」
「そうだよな」
服屋に着くと、コーディネートしてくれそうな店員がいたので、ルーネが早速交渉してくれた。
「ふーむ」と店員は小さな丸いメガネを下げたり上げたりしながら、俺の全体をじっくりと観察していた。頭身を測るかのように視線を上下させた後、彼が手渡してきた服は、黒を基調としたトレンチコートとくるぶしまでの黒いパンツ、そして動きやすさを重視しながらも金属でできた足を守るシューズだった。
服を手に取ると、その質感はしっかりとしていて、見た目にも機能的な印象を受ける。戦闘にも、街歩きにも適していそうだ。
「これ、いいんじゃないか?」
「ええ、とても似合っていますよ」
ルーネは自分のことのように喜んでいた。
「さて、これからどうするか? 他の街に行くか?」
「そうですね。あまり長く滞在すると追っ手に見つかる可能性があります。明日、早朝に出発するということでいいでしょうか?」
「了解した」
「あとは武器屋に行きましょう。零には必要な装備があるでしょう?」
「いや、必要ない。だって作れるから」
ルーネの目が点になり、驚きで口がVの形になっていた。
「いま、なんと?」
「だから、武器は自分で作れるからいらないって」
彼女は信じられないような顔をしながら、俺をじっと見つめていた。その表情があまりにも面白くて、思わず微笑んでしまった。
「一旦宿屋に戻りましょうか?」
宿屋に戻ると、俺はすぐにドアをロックした。すると、ルーネが俺のそばにすたすたと近づいてきて、
「あ、あの、実はその……」
と妙にモジモジしている。なんだか気持ちが悪い。そして、嫌な予感がする。
「わたしにも……」
「ダメだ」
「まだ何も言ってないじゃないですか!」
「いや、わかってる。言わなくてもこれだろ?」
俺が差し出したのは、小さな貝殻のブレスレットだった。これには秘密がある。実は俺とリンクしていて、彼女がどこにいようと場所を教えてくれる、ありがたいアイテムだ。昨日の夜、こっそり作っておいた。
彼女が狙われた時に役に立つだろう。
「なんですか?これは?」
「今日のお礼だ。受け取ってくれるか?」
「はい、もちろんです。大切にしますね、零」
彼女はブレスレットを手に取り、感謝の気持ちを込めた笑顔を見せた。俺は少し照れくさくなりながらも、安心した。
「本当は武器が良かったですがそれは勘弁してあげましょう」
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