第26話 スリの件については

 人混みの中、ルーネはゆっくりと進んでいく。俺も置いていかれないように、必死に後を追いかける。人にぶつかるたびに、身体があらぬ方向に引っ張られそうになるのを堪えながら進むと、ルーネは狭い路地に向かって進んでいった。だが、そこに問題があった。


 ルーネの巨大な胸が邪魔をして、路地を通れなくなっている。ちょうど子供が通れるくらいの狭さだ。

「通れません!」

「いや、諦めろよ!」


 彼女は串を折って不機嫌さを露わにしていたが、俺は深いため息をつき、言った。


「わかった。選手交代だ、俺が行こう」


「わかりました。後ほど合流しましょう」


 ルーネの返事を聞くと、俺は素早くジャンプし、屋根を飛び越えながらスリを追っていく。街並みを見下ろしながら、やがてスリの姿を発見した。


「はい、ストップ」


 俺はスリの前に飛び降り立つと、相手はすぐに刃物を向けてきた。ダガーくらいの小さなものだが、油断は禁物だ。小さくてもその殺傷力は高い。


 俺は静かに相手の動きを見極めながら、次の一手を考えた。


「ガキ、それを俺に向けたってことは、自分が勝てると思ってるのか?」


「そ、そうだよ! お前は弱そうに見える!」


 ふははははっと、思わず高笑いしてしまった。俺が弱そうに見えるだって? 笑わせんなよ。


「おいおい、あんまり舐めてると、殺すぞ」


 威圧ってものがどうやるかはわからないが、ここまで舐められてるなら話は別だ。俺はじっと相手を見つめ、圧力をかけるように一歩前に出る。


「これでなにか食え」


 そう言って、ルーネからくすねておいた金貨を地面に置くと、スリは怯えた表情を見せた。その瞬間、尿を漏らしながら嗚咽をあげる少年の姿が目に入った。俺は子供の荷物を回収して、そこを離れることにした。


 荷物をルーネに届けるため、彼女と合流した。

「なにか、ありましたか?」と尋ねられたが、俺は軽く首を振り、「何もない」と答えた。


 彼女がその答えに特に疑問を抱く様子はなく、俺たちはそのまま街を歩き続けた。スリの一件は、これで終わりだと思うことにした。


「えっ!またあの宿に泊まるだと!?」


 俺は驚いて思わず声を上げた。道中、ルーネが当然のようにそう提案してきたのだ。


「あの宿、よかったじゃないですか。広いベッドもありましたし」


 ルーネはケロっとした顔でそう言うが、俺の心は複雑だ。昨夜の寝相の悪さを思い出すと、もう一度同じ目に遭うのかと思うと気が重い。


「いや、できれば別の場所にしたいんだが……」

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