第24話 朝からまあまあ

「わ、わたし、汗臭いですね。お風呂に入ります。あっ、覗いたら死刑ですっ♡」


 完璧なウィンクで、俺の心臓は一瞬ドキッとした。彼女が浴室に向かった後、俺はベッドに横になり、今後の計画を練り始めた。


「女神、許さんぞっ」

 思わず声に出してしまい、急いで口を塞ぐ。幸い、水の流れる音が聞こえていたので、ルーネには聞こえていないようだ。


「お風呂いただきました」


 しばらくして、ルーネがバスタオル一枚でこちらに現れた。彼女は恥ずかしそうに顔を真っ赤に染め、俺の近くに座った。


「殿方はこのようなことで興奮すると父は言っていました。お前の身体は武器になる。胸でも揉ませてやれば、なんでも言うことを聞くに違いないと!!」


「よ、よせ! 早く服を着ろ! その……目のやり場に困る。別に嫌とかではないんだが……」


 俺は顔をそむけ、心の中で必死に冷静さを保とうとしていた。


「俺、風呂に入るから、それまでに服着ろよ!!」


「いくじなし」


 そう聞こえた気がして、思わず足を止めかけたが、すぐに気を取り直して浴室へ向かった。

 シャワーで数日分の汚れを洗い流しながら、心の中のモヤモヤも一緒に流れていけばいいのに、と思った。


 風呂を上がると、すでにルーネは寝ていた。さっきまでのドキドキを返してくれ、と内心思ったが、初めて見る彼女の寝顔は、驚くほど穏やかで、無防備で――まるで別人のようだった。


 その姿を見て、思わず微笑んでしまい、少しだけ心が落ち着いた。


 寝ている彼女の首から下げているネックレスが、ふと目に留まった。どこかで見たことがある――いや、俺がしているネックレスと似ている気がする。


 いや、これは同一のものか?それとも偶然の一致か?

 思わず手を伸ばしかけたが、彼女を起こしてしまうかもしれない。胸の中で疑問が膨らんでいくが、確かめるのは今ではないと、そっとその場に留めておいた。


 俺は彼女の横で眠りについた……はずだった。

 だが、ルーネは予想以上に寝相が悪かった。布団を俺から剥ぎ取り、さらには俺をベッドから蹴り落とし、ようやく戻ろうとしたその瞬間、思わずグーパンを喰らう羽目に。


 そういえば、野宿した時は離れていたから気づかなかったが、何かがおかしいと直感的に感じていた。だが、俺はその直感を無視してしまったのだ。


 ベッドの下から見上げながら、これは寝るどころじゃないなと、俺は思わずため息をついた。


 小鳥が鳴いている。朝だと告げるその声を聞きながら、俺はベッドの下から起き上がる。あれから一睡もできなかった。


 一方で、ルーネは気持ちよさそうに目覚めている。初めて彼女に対して、軽い殺意が湧いた。

「気持ちのいい朝ですね、零」

「ああ、そうだね……って言うわけねぇだろう! 今度は別の部屋にするからな!」


 俺は怒りを抑えきれず、地団駄を踏んだ。ここは2階の部屋だが、下の階の人のことなんて考えずに、そのまま怒りを爆発させた。


 ルーネは、俺の様子を見て、何かを勘違いしたように目を見開き、驚いた表情で言った。


「まさか、わたしの身体を!」


「いや、ちげーよ!」


 俺は顔を真っ赤にしながら即座に否定するが、どうにもこの誤解は簡単には解けそうにない。

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