第23話 安心してください。

 だが、その街の闇をかき消してくれたのは、ルーネだった。彼女は、何も知らない俺に色々と教えながら街を案内してくれた。

「宿を取りたい」

「いいですよ」


 向かったのは高級そうな建物。これが宿屋だというのか。この世界では、某テーマパークのように綺麗に整った建物が並んでいたが、この宿もその例に漏れず立派だった。


 カラン、と扉が鳴り、中に入ると「いらっしゃいませ!」という元気な声が響いた。

 どうやら看板娘のようだ。年齢は二十歳くらいだろうか。メイド服風のデザインを着こなし、どこか昔の貧しい姫が出てきそうな雰囲気もある。ぱっちりとした可愛らしい顔立ちで、黒髪がその美しさを際立たせていた。


「二人で一つの部屋を取れますか?」

「えっ!」

 俺は思わず声を上げてしまった。


「あらまあ、良いですよ。ちょうど良い部屋が空いてますので、どうぞごゆっくり。何か聞こえても私は知らないふりをしておきますので、ご安心ください」


 くすくすと笑う店主に顔を赤くしたまま、俺とルーネは何も言わずに部屋へと向かった。

 部屋に入った瞬間、目に飛び込んできたのはベッド。しかも、ベッドは一つしかない。まさか、ここで二人で寝ろということか?

「こ、こっちの方が二人で泊まるよりも安い料金で済みます。だからです」

「そ、そうだよな。わかっているよ」


 俺たちは座る場所がないので、ベッドに腰掛けることにした。しかし、俺には目的がある。ここで話しても良いだろうと思い、口を開いた。

「ルーネ、お前は、女神をどう思う?」

「どう思う? 私は特に何とも思いませんが……何かありましたか?」


 俺は少し迷ったが、真実を打ち明けることにした。

「実は隠していたが、俺は転生者であり、女神に復讐をしようとしている。ルーネ、お前がもし女神を崇拝しているならば、俺の敵になるかもしれないが……本当のことを教えてくれるか?」


 ルーネの表情が一瞬硬くなり、考え込むように視線を落とした。俺は彼女の答えを待ちながら、緊張で心臓が高鳴るのを感じていた。


「私は、女神をよく思っていません。それだけは言えます。だから、あなたの敵ではありません。安心してください」

 そう言って、ルーネは俺の手を両手でしっかりと掴んだ。

 そのことに気づいたのか、彼女は急に顔を赤くして、慌てて手を離した。

 俺も不意に胸がドキッとして、言葉を失ってしまったが、心の中ではほっとしていた。

「わかったよ、ルーネ。ありがとうな。励ましてくれて」

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る