第9話 ヴィル・アルバーン

「思いついたぞ、ヴィル。あの首なしのやろうを倒して、魂を解放したら、骸骨どもはパニックになるんじゃないか?」


「確かに、それは効果的だろうが、どうやって倒すんだ?気づかれたら終わりだぞ」


「いや、むしろ気づかれてくれた方がいい。そっちのほうが好都合だ」


 俺は覚悟を決め、一気に走り出した。体が思っていたよりも軽い。現実世界でもこれだけ早く走れたなら、どれだけよかっただろうか――そんなことを考えながら進んでいく。


 一体の骸骨兵士がこちらに気づき、指を指してくる。しかし、相手は所詮ただの骨。叫ぶこともできず、俺の一撃で粉々に砕け散った。細かくなった骨を踏み越え、さらに加速する。次の標的は片手に剣を持った骸骨兵士だ。


 奴が剣を天に掲げた瞬間、雷の竜が空中に姿を現し、俺に襲いかかってきた。だが、その攻撃は当たらない。素早く回避すると、竜の咆哮が他の骸骨兵士や骸騎士たちの注意を引き寄せるのが見えた。俺はその隙を逃さず、一直線に首なしの骸騎士へと突っ込んでいった。


 近くにいた骸骨兵士が俺の一撃を防ごうと動いたが、奴らを盾に使って突破する。攻撃の手を止めず、追撃を繰り出す。骸騎士は剣を振ろうとするが、俺はその前に馬ごと奴を蹴りつけた。よろめいた隙に、決定的な一撃を叩き込む。


「これは、みんなの分だ!受け取れ!」


 何も言えず、首なしの骸騎士は無言で天に手を伸ばし、やがて灰となって消え去った。霧のように薄れていくその姿とともに、周囲に漂っていた魂が次々と解放され、空へと昇っていく。


 骸骨兵士たちは、魂を失った瞬間に動きを止め、まるで操り糸を切られた人形のように倒れていった。計画は見事に成功した。


 二人でハイタッチを交わし、達成感に包まれた。しかし、束の間の勝利だった。散らばっていた骸骨の破片が不気味に集まり始め、骸骨竜が形を成していくのが見えた。


「やばい、あれは…!」


 俺が身構える間もなく、ヴィルが咄嗟に俺を庇った。


「お前は先に行け!」


「ヴィル!」


 だが、俺の叫びもむなしく、骨の巨大な手がヴィルを掴み、彼の体が骨と一体化していく。無情にも、ヴィルは骸骨竜の一部として取り込まれていった。


「ヴィル…!」


 俺は、お前を友だと思っていた。

 この世界にきて唯一の友だった。もし俺があそこで捕まっていたら、もしヴィルではなくて、俺だったらヴィルお前はどうする?


 歯を食いしばり、自分が天狗になっていたのを再認識したのちに、怒りを通り越して冷静さを取り戻すすことができた。


「ヴィル、今助けてやる。身体強化」


 俺は走りだした。骨の手が俺にゆっくりと迫る。しかし遅すぎる。絶対的な強者は勝利を確信しているようだ。

 素早く後ろに回ると杖を横に振り足の骨を砕く。

 次に翼。逃げられないようにするためだ。その後に顔を砕く。そこで怒りが爆破して何度も何度も骨が塵になるまで叩く。やがて、額から汗が溢れる。いや汗ではない。涙だ。


 その時、頭上から女神の声が響き渡った。


「きこえてますかー?零、いや風間零。ふふ、兄上は処分対象だったので、ちょうどよかったですね」


 その冷酷な声に、俺は杖を握り締めた。


「あなたが逃げ出せないように警備レベルを上げておきました。もう脱獄は不可能に近いでしょう。それでは、私はこれからエステに行かないといけないので失礼します」



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