第4話
明夫は息を切らしながら個性屋に入る。明夫は店主に事情を説明して、何が起きているのかを尋ねた。すると、店主が淡々と答える。
「お客様がご購入された個性は、私たちの間では無個性と呼ばれます」
店主は説明しながら個性について記載された紙を出して、5番目の個性を指さす。
5.見た目・性格:いたって普通 特記事項:なし 価格:500円
「こちらの”いたって普通”の個性とは、個性を限りなく排除した状態です。他人から印象に残ることが減り、良い印象も悪い印象も持たれなくなります。人間関係の負担が減り、穏やかに過ごすことができるので、人間関係に疲れてしまったお客様に好まれています」
明夫は店主の説明を聞いて、自分の状況を理解した。昨日の体育でペアになることを断られた男子生徒が今日ペアになってくれたのは、明夫に対する悪印象がなくなったからだった。逆に、瑠奈の反応が薄かったり、担任が明夫を自身のクラスの生徒と認識しなかったり、母親から認知されなかったりしたのは、明夫の印象そのものが薄れてしまったからだった。
「そんな...元に戻してくれませんか?」
明夫は泣きそうな顔で店主に懇願する。しかし、店主は首を横に振り、再び個性が記載された紙を指さした。
6.見た目:過体重 性格:他人に配慮する能力に長ける。向上心が高く、自身の課題を見つけ、解決方法を考えて実践する能力に長ける 特記事項:体質上、瘦せることが困難。サブカルチャーの知識が豊富 価格:5万円 売却済み
「こちらがあなたの個性です。そして...」
店主は最後に記載された”売却済み”の文字を指さして説明を続ける。
「申し訳ございませんが、ご購入時にお伝えしました通り、返品はできかねます。あなたの個性は、すでに他のお客様に購入されております」
明夫が個性を取り戻せないまま、個性屋を出ると、外は夕方になっていた。明夫は家に帰るために、とぼとぼと歩く。南光中学校の近くまで来ると、明夫は視線の先に、二人の学生が自分のほうに歩いてくるのが見えた。それは瑠奈と見知らぬ男子高校生だった。男子高校生は、ふっくらとした体形で、どことなく元の明夫に似ていた。二人は仲良く談笑しながら、明夫の横を通り過ぎた。明夫は瑠奈に視線を送るが、瑠奈は明夫の存在に気づかなかった。
「”妖カシ”の○○の性格超好き!」「俺は△△が好きかなー」
二人の会話が耳に入り、明夫はハッとして、通り過ぎた二人のほうを振り返る。二人の姿は煌々とした夕日で照らされ、明夫は目を細めることしかできなかった。
個性屋さん @jori2
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