第3話
次の日もまた、じめじめとした天候だった。明夫は自分の変化に対して何と言われたらどう言おうと思いながらクラスに入ったが、明夫の変化を気に留める人はいなかった。明夫は、そんなものか、とそこまで気にはしなかった。
その日、明夫のクラスでは体育の授業があった。担当の教師は、昨日と同じようにペアを組んで柔軟を行うように指示した。いつものように明夫は、ペアを組めないでいると、昨日、明夫が声をかけた男子生徒が明夫に声を掛けてきた。
「ペア組まない?昨日はごめんな。なんであんなこと言ったんだろ」
男子生徒は気まずそうに頭をかきながら、明夫を誘った。明夫は今まで誰かに誘われたことがなかったので、昨日の男子生徒の無礼よりも初めて誘われた嬉しさが上回った。今まで苦痛だった体育が、嘘のように楽しかった。
体育の授業が終わり、明夫がクラスに戻ると、瑠奈が隣の席に座っていて、次の授業の準備をしていた。明夫は昨日感情的になって瑠奈にひどい言い方をしたことを思い出し、瑠奈に声をかける。
「あのさ...昨日はごめん。嫌なことがあって、ムキになってた」
明夫は頭を下げて、瑠奈に謝る。
「あー...全然いいよ」
瑠奈は明夫に返事すると、また次の授業の準備を始めた。明夫は瑠奈の反応を見て、許してもらえて嬉しいというよりは、あまりにもそっけない気がした。内心の怒っていて、すねていると思ったが、どちらかというと、興味なさげな反応に見えた。
放課後、明夫は瑠奈の反応が気になりながら、家に帰る。校門を出るときに担任の先生がいたので、さようなら、と挨拶する。担任は、自分のクラスの生徒を見かけると、必ずちょっとした世間話をする。今日はどんな話をされるのかと明夫が思っていると、担任は、さようなら、とだけ言った。明夫は話が振られるだろうと思い、担任の目の前で立ち止まっていると、担任から不審な目で見られる。
「どうした、何かあったか?」
担任から話を振られないことに明夫は少し驚き、いえ、と言って、そそくさと学校を後にした。担任が話を振ってこなかったことに、珍しい、と思いながら家に帰っていると、歩道の向かい側から歩いてくる母親を見かけた。買い物に出かけている途中のようだった。明夫はその場で立ち止まり、手を振って母親が歩いてくるのを待った。母親が目の前に来て、声を掛けられるのを待つ。しかし、母親はわざと明夫から目をそらすように早歩きで明夫を横切った。明夫は母親は追いかける。
「ちょっと待ってよ!」
明夫が母親を引き留めると、母親は振り向いて驚いた顔をした。
「ええと、あなたはどちらさま...?」
明夫は母親の様子を見て、何かがおかしい、と思った。
「明夫だよ、どうしたんだよ」
母親は明夫の顔を見て、ああ!と言って目を丸くする。明夫がなぜ気づかなかったか母親に聞くと、別人だと思った、という。昨日、家では明夫の変化に対して何も反応を示さなかったのに、ここでは驚くような反応を見せたことを、明夫は不思議に思った。明夫は、今日の出来事を振り返ると、おかしなことが多いことに気づいた。瑠奈の反応の薄さ、担任が自分と顔を合わせても話を振ってこないこと、それなのに自分の変化に対して何も反応はないこと――。明夫は何か嫌な予感がして、個性屋に向かって走りだした。
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