第2話
”あなたの個性を取り替えます”という言葉に惹かれ、明夫は個性屋に入った。
店の扉をくぐると、木製のカウンターがあり、その向かいにおじいさんの店主がいて、明夫を見ると、いらっしゃいませ、と言って迎えた。明夫は、店に入ったもののどうしたらいいのかわからず迷っていると、店主から声を掛けられた。
「ご利用は初めてのようですね。こちらからお好みの個性をお選びください。個性の価値に応じて、価格が決まっております」
店主はそう言って、個性の説明とそれぞれの価格が記載された紙を見せた。
1.見た目:中肉中背・美形 性格:野心家で誠意を大事にする。物事の洞察力に秀でる 特記事項:乱視のためメガネ必須 価格:20万円
2.見た目:やせ型 性格:好奇心旺盛で謙虚 特記事項:なし 価格:30万円
3.見た目:過体重 性格:行動力があり自己顕示欲が高い 特記事項:肝機能にやや異常あり 価格:7万円
4.見た目:中肉中背 性格:感情豊かで冒険的な行動を好む 特記事項:手品が特技 価格:100万円
5.見た目・性格:いたって普通 特記事項:なし 価格:500円
※購入後、返品不可
「ご購入された個性はお客様のものになり、現在のお客様の個性はこちらでいただきます。つまり、ご購入された個性と現在のお客様の個性を入れ替える、ということです。なお、ご購入後の返品は不可となっておりますので、ご了承ください」
店主の非現実的な説明を聞いて、明夫は困惑を隠せなかった。明夫の反応を見て、店主は、ふふふ、と声を出して笑った。
「失礼いたしました。初めていらっしゃるお客様はみなそういった反応をされるもので。ただ、本当に個性を変えられるのは間違いございませんので、ご安心ください」
明夫は、なるほど、と言って、紙を見る。明夫は一番下のいたって普通の個性を選んだ。中学生には何十万も払うことはできないのと、自分の肥満体形が変わるのであれば、明夫にとって他はなんでもよかった。
「ありがとうございます。こちらで本当によろしいでしょうか?もう一度確認いたしますが、購入後の返品はできません」
店主が確認すると、明夫は、大丈夫です、と答える。不安がないわけではなかったが、自分のコンプレックスから解放される希望のほうが大きかった。明夫は店主に500円を支払うと、店の奥に案内される。
30分ほどして、明夫が店の奥から出てくると、店主が背丈くらいの大きさのスタンドミラーを明夫の前に持ってきた。明夫の姿は、今までのぽっちゃりとした体形ではなく、すらりとしていた。顔は、一言で言うなら街中で見たことがある気がする、といった感じで、可も不可もない、と明夫は感じた。明夫は店主にお礼を言い、家路についた。コンプレックスから解放された明夫は、駆け足で帰るのだった。
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