鏡の中の影と彼の心

ゆんちゃま TSFとダークファンタジー作

第1話 不気味な遺産

薄暗い廊下を進むたび、北条隼人の心に不安がよぎる。祖父から受け継いだ古びた屋敷は、彼にとって懐かしさと恐怖が交錯する場所だった。思い出に浸りながらも、その奥に潜む不気味さを感じ取っていた。廊下の壁には、色あせた写真が掛けられ、若かりし日の祖父が微笑んでいる。しかし、その笑顔が隼人の心を温めるどころか、彼に孤独感を呼び起こす。


「どうして、こんな場所を残したんだろう…」


つぶやく声は、空気に吸い込まれていく。隼人はふと、悠斗(ゆうと)のことを思い出した。悠斗は幼馴染で、彼の笑顔や明るい声がいつも隼人を支えてくれた存在だ。特に、この屋敷で二人が共に過ごした夏の日々は、隼人の心の奥に色鮮やかに刻まれている。あの時の彼の笑顔、無邪気に鏡の前で戯れる姿…その瞬間の暖かさが、隼人の胸を締め付ける。


「悠斗、今どこで何をしているんだろう…」


隼人は廊下の突き当たりにある大きな鏡を見つめた。鏡は祖父が特に大切にしていたもので、何か秘密があるような気がしてならなかった。悠斗と一緒に遊んでいたあの日、鏡の前で彼が言った言葉が耳に残っている。


「この鏡には、特別な力があるんだ。未来を映すこともできるよ。」


その言葉を思い出すたび、隼人は切ない感情に襲われる。悠斗との距離が徐々に遠くなり、連絡も途絶えがちになったが、彼への想いは消えることがなかった。あの明るい日々が、今はどれほど遠く感じられるのか。


「もし、また悠斗に会えるのなら…」


その願いを抱きながら、隼人は鏡の前に立ち尽くす。冷たい風が彼の頬を撫で、背筋が凍るような感覚がした。心臓が高鳴り、指先が震える。その瞬間、鏡の表面がわずかに揺らぎ、隼人は思わず息を飲んだ。


「悠斗…」


その声が空気を震わせる。まるで彼がこの場にいるかのように、心の奥で願いが芽生えていく。再び悠斗と向き合い、彼との絆を取り戻したいという気持ちが強まる。しかし、鏡の奥に潜む影は、その願いを許さないかのように冷たく輝いていた。


「何が起こっているんだ…!」


混乱する心の中で、隼人は逃げることができずにいた。鏡の中には悠斗の姿がちらりと映り、かすかに微笑んでいるように見える。その瞬間、過去の思い出が鮮やかに蘇る。悠斗と過ごした夏の日々、彼の優しい眼差し、そして二人の心の距離が縮まった瞬間。


「隼人、いつでも君のことを考えているよ」


悠斗の声が、耳元でささやく。驚きと喜びが胸を満たし、思わず涙が溢れる。隼人は思い切って手を伸ばし、鏡の表面に触れようとする。その瞬間、悠斗の姿が一瞬だけ現れ、再び消えた。


「何が起こっているのか…!」


心の中で絶望が広がる。悠斗との再会を願う隼人だが、彼が鏡の中に囚われているのか、あるいは別の何かがその存在を脅かしているのか。彼はこの不気味な屋敷に隠された秘密を解き明かし、悠斗との絆を取り戻すことができるのか。


鏡の中の影が、彼を待っている。

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鏡の中の影と彼の心 ゆんちゃま TSFとダークファンタジー作 @kietaiyuncha

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