第24話 今後も自分の想いを貫いていきたい――

「さっきはありがとね」


 地元の駅に到着した頃合い、二人は電車から下車し、改札口を抜けて駅中の道を歩いていた。


「いいよ。そもそも、俺、何も出来ていなかったし。ただ、その場所にいるだけみたいなものだったしさ」

「まあ、そうだね。確かにね」


 白石美蘭しらいし/みらは笑っていた。


「本当にありがとね。あの時、真幸が来てなかったら色々と面倒事になっていたかも」


 彼女からお礼を言われていた。


「でも、あんな真幸の真剣な表情を見てさ。だから、真幸は信用できる人だって思って。あんな奴とは全然違うし。自信を持ってもいいからさ」


 河合真幸かわい/まさきは、美蘭から励まされていたのだ。

 本当に苦しかったのは彼女の方だと思う。


 美蘭の方が大分強い心を持っていると思った。

 でも、心の底ではかなり傷ついていたのだろう。


 合津和真とは二度と会う事はないと思うが、また何かあった時は確実に美蘭を助けられる人になりたいと考えていたのだ。


「そう言えば、明日は何か用事ってあるの?」

「あ、明日? えっと」


 真幸は彼女からの問いかけに一瞬悩むものの、明日は幼馴染の彩芽と遊ぶ約束をしているのだ。


「ちょっと用事があるんだよね」

「そうなの? じゃあ、しょうがないっか。まあ、そういう時もあるよね」


 彼女は意外とすんなりと受け入れてくれていた。


「まあ、今日はここで」

「え、家まで近いし、送って行くよ」

「いいよ。今日はさ。ちょっと一人になりたい気分なんだよね」

「でもさ、さっきみたいな事もあると思うし」

「そんなのないよ。だって、アイツは別のところに住んでるんだよ。それにさ、進路指導の先生に連れていかれたと思うし、何もしてこないよ」


 美蘭ははにかんでいた。


 大丈夫なら、それでいいと思い、真幸は深入りする事なく、駅の出入り口付近で別れる事にしたのである。


 真幸は別れ際に、彼女に対して手を振っていたのだ。






 真幸は一人になったまま、自宅に繋がっている道を歩いていた。

 次第に辺りは夕暮れ状態になり、電灯が付き始めていたのである。


 今日の遊園地は楽しかったと思う。

 一人になると、余計にその余韻に浸りたくなるのだ。


「というか、買い忘れはないよな」


 真幸は手にしている買い物袋の中を確認してみる。

 特に忘れたものなどはなく、お菓子セットもしっかりと入っているのだ。


「大丈夫だよな。遊園地で買ったモノではないけど、バレないよな……」


 セット商品もボリュームがあり、妹の咲夜さくやも納得してくれると思う。


 少しヒヤヒヤしながら、自宅前に到着する。

 真幸はチャイムを鳴らす。


 今日は鍵を持たずに出たため、今のところ妹か両親しか持っていないのである。


 その時、扉が開く。


「お兄ちゃん、お帰り。どうだった?」


 最初に出迎えてくれたのは、咲夜だった。


「アレ? それって、私が頼んでいたお菓子セットでしょ!」


 咲夜はパアァと表情を明るくしていたのだ。


「ちゃんと買ってきてくれたんだね」

「ああ、そうだよ。忘れずに買ってきたさ」


 真幸は妹に買い物袋を渡す。


「ありがとね!」


 バレてはいないらしい。


 真幸は妹に案内されるがままに、自宅に入るのであった。




「わー、凄い! ちゃんとキャラクターのクッキーになってる! それに、今回のセットにはキャラのステッカーシールも入ってるんだね!」


 ソファに座ってセット商品の箱を開封し、中身を見ていた咲夜は子供ように喜んでいた。


「ありがとね、お兄ちゃん。このステッカーシール欲しかったんだよね」

「そうか、ならよかったよ」


 妹が喜んでくれれば、それだけで真幸も嬉しかった。


「そういや、父さんと母さんは?」


 妹と共にリビングにいる真幸は辺りを見渡す。


「ちょっと仕事の事で職場に呼び出されたみたいだよ。今日は帰ってこないみたいだけどね」

「そうなんだ、大変だな。もう少し休んでもいいんだけどな」

「しょうがないよ。お父さんも、お母さんも会社の中でも重要な事をやってみるみたいだし」

「それはそうなんだけどさ」


 両親と一緒に食事をとったのはいつだろうか。


 真幸が高校生になってから、家族全員で食べる機会などなくなっていた。


「でも、お母さんがね、夕食を作ってくれているみたいだよ。本当は一緒に夕食を食べるつもりで。確か、すき焼きだったかな」

「すき焼きか。残念だな、父さんも母さんもさ。すき焼きって言ったら、誰かと一緒に食べると一番美味しいのにさ」


 夕食の話をしていると、隣のキッチンからすき焼きのこってりした匂いが漂ってくるのだ。


「俺は夕食の準備でもしてくるかな。咲夜の分も用意するけど、卵はいるか?」

「いる!」

「じゃ、用意しておくよ。後、夕食前に、そんなにお菓子ばかり食べるなよ」

「そこは考えて食べてるんだからねッ!」


 咲夜はわかってると言わんばかりにムスッとし、両手で持っているクッキーを食べていたのだ。


 真幸が夕食の準備を始めた頃合い、玄関の方からチャイムが響く。


 こんな時間になんだろと思いながら、真幸は玄関へと向かい、扉を開けたのだ。


「真幸、今からお邪魔してもいいかな」

「彩芽? どうしてここに?」


 玄関先にいたのは、意外にも八木彩芽やぎ/あやめだったのだ。


「真幸の両親から電話で今日の夕食を一緒に食べてもいいって言われてて」

「そ、そうなのか? 別にいいけど」

「それに、明日は一緒に遊ぶ予定だからね。着替えも持ってきたの」

「え⁉」


 よくよく見ると、彼女は服が入った手提げ袋を両手で持っていたのだ。


「いいよね。今日の夜から一緒に過ごしても」


 彩芽から上目遣いで誘惑され、真幸は内心動揺しまくっていたのである。

 けれど、何とか心をコントロールしようと必死になっていたのだ。


 実のところ、ただ帰らせればいいだけなのだが、昔から仲の良い幼馴染を追い返せるわけもなく、変な思惑が加速していくようだった。


 今後は美蘭と付き合っていく予定なのである。

 今日の一連の流れを経験し、そう決意を固めていたのだ。

 だから、彩芽からの告白は断ろうと考えていた最中だったのである。


「……」

「どうかしたの? 難しい顔をして」

「いや、なんでもないよ。一先ず入って」


 ここからは自分との闘いだと思い、真幸は一旦深呼吸をしたのち、彩芽を自宅にあげる事にしたのだった。

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露出度高めな陽キャ女子が、俺にだけ心を許してくれて色々見せてくれる⁉ 譲羽唯月 @UitukiSiranui

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