【完結済】【短編】どうだい、ご友人。楽しんでくれたか?これで土産のお代に釣り合ったかな?
門東 青史
どうだい、ご友人。楽しんでくれたか?これで土産のお代に釣り合ったかな?
「――おっ、来たか!まあそんなところで立ってんのもなんだ、入れ入れ!」
「ん?土産ですと?……おおぉ、こいつぁはすげぇ上物だ。いいじゃねぇですか。早速ご賞味あずかると致しましょう。ちょいと準備してくるんで、そこいらに座って、まってな!」
「いや、いいっていいって。お客様なんだからよ。座っとけ座っとけ。ちょうどいい水那須が入ったんだ。塩つけて食べたらうめえぞ。」
「どうだい、いいだろ?この水那須はなぁ、神域の泉で育った特別な一品なんだ。しかも採れたての新鮮なやつで、甘みが際立ってる。」
「くぅーっ、いいねぇ、五臓六腑に染み渡るってもんだ。え?無いだろうって?いいんだよ、こういうのは気分なんだから。いやぁ、こういう土産ならうれしいんだがなぁ。まったくよ。なんでか知らないが、願い事をかなえてくれって来る奴らは、こうセンスってモンがねぇんだよな。他人の命を贄に願望を叶えてくれと言う輩ばかりでよ。奴隷百人連れてきましたとか、穢れを知らねぇ乙女を連れてきたとか。こちとらおめえの手に入るようなもん、いらねぇってのにな。あんたんとこも、そんなんが来るだろ?」
「おおやっぱそうか、来るよな、わけのわからない奴らが。……ん?贄の乙女をめぐって兄弟三人が三つ巴の喧嘩だぁ?そりゃ親がいけねぇな、親が。教育ってもんがなってねぇ。で、どこの兄弟だい、そんな騒ぎ起こした馬鹿どもは?」
「えっ?お前さんところ坊主たちだ?……はぁー、いや、前見たときはこーんな小さかった坊主どもが、惚れた女のことで切った張ったの喧嘩するようになるたぁ、成長したもんだ。うん、しっかり育ったようで、安心したよ。親もよく頑張たってもんだな。……だからよ、その口元でチロチロ炎を出すのは止めていただけませんかね?いや、悪かったって、炎の色がね、その、赤から白に変わってて、本気で怖いんですけど?」
「いや、そりゃ死なねぇよ?死なねぇけどさ、熱いんだよ、あんたの炎は。なんたって、竜母ノクタリナ様の炎は世界だって焼き払うんってんだからよ。」
「ふぅ、おっかねぇ。……そうだ!そういや、今日は話を聞きてえって言ってたな?何を聞きてぇんだ?こちとら英雄譚の収集にや、心得があるんだ。」
「そうかい、そうかい。そんなに聞きてぇか。俺の大親友にして、最高の男の話を。そんじゃ、一丁話してやるか。この話をするにはまず俺の生まれから話さなきゃな。」
「昔、一人の大魔法使いが居たんだ。大魔法使いってんだから凄いもんさ。大地を空に浮かべ、海を割ることも、山を穿つこともお手の物な大魔法使いよ。でだ、その大魔法使い様が話し相手にと生み出したのがこの俺さ。」
「最初は魔導書の情報を整理したり、魔法の術式を組むの手伝ってたんだが、次第にこう、他のことも話すようになった。俺たちは馬が合った。好みが合った。二人とも人が苦難を乗り越え、決断し、努力し、困難に立ち向かい勝利する姿を見るのが大好きだった。」
「あいつの書庫には様々な英雄たちの冒険譚が収められていたし、まさに進行中の冒険が助力を求めて訪れることもあった。俺には未来を掴む腕もなければ、夢を追う脚もない。だからその生き様を見守り、伝えることに決めたんだ。」
「ある日、あいつは俺に新しい機能をつけてやると言った。つけられたのは、望みを叶えてやり、そしてその代わりに叶えた分より多く奪う機能だ。……ああ、そうだ。巷じゃ『施しと収奪の呪い』とか言われているそれさ。……まあ、この呼び名は好きじゃないんだけどな。なんだか悪者の力みてぇじゃねぇか。」
「そりゃ俺も聞いたさ、なんでこんな益体ない機能をつけるんだって。あいつは今にわかるさと笑って教えちゃくれなかったけどな。」
「楽しかったなぁ、あいつと過ごした時間は。でも、そんな大魔法使い様も、時の流れには逆らえず死んじまった。悲しくないって言えばうそになるがよ、でもまあ、大往生だったんじゃねぇかな?他の人間の三倍くらいは生きたんだから。」
「それからしばらくの間は、休眠状態よ。ほら、俺ってば、中々の特別製だろ?なんせ大魔法使い様謹製だから、使用者との相性ってのが重要なんだよ。おかげで次の目が覚めたのは今から300年くれぇ前。あいつの書庫で、あいつの子孫が俺が眠ってた小瓶を蹴倒すまで寝てたんだ。」
「エルフの森の南に王国があんだろ、そこの前の王国の時代だな。あんたも覚えているんじゃないか?猫耳の一族が王族だった国だ。目覚めたのはその国の末期、国王の急死に端を発した次期国王選びの争乱の時。国は第一王子と第三王子の二つの勢力に分かれ、乱れてた。」
「そんな時代、あいつの子孫、アランっていうんだがな、そいつはその国のお姫様に仕えてた。そのお姫様は王位継承権から遠かったんで、いつもそばにいる信頼できる従者と共に、小さな所領でつつましやかに穏やかに暮らしていたんだ。」
「こちとらいきなり瓶ごと蹴り起されたもんだから『なんだぁ!?』って叫んだら『ごめんなさいっ!』て返事があったんで、そりゃもう驚いた。つまり相性が最高で一発で心がつながったって訳さ。」
「アランはお姫様からから頼まれごとをされ、何とかする方法はないかと書庫を漁っていたそうだ。『お気に入りの髪飾りを無くしたんで探して欲しい』、だったかな?いつもは自分で探して何とかしていたようなんだが、その日は中々解決策を見つけることが出来なかったらしい。そこまで聞いたら、大魔法使い様の相談役たる俺様の出番よ!」
「大魔法使いの相談役たる俺様には、膨大な知識がある。それに話し相手として生み出されたから、教えるんだって得意だ。俺様のアドバイスとアランの頑張りでお姫様は大喜び。それからは、髪飾りの件のあとも色んな相談に乗ってやったのさ。」
「アランとはいろんなことを話したな。大魔法使いのことも教えてやった。あいつが英雄譚大好きな楽しい奴だったことも含めてな。それからアランを介して姫様とも。いい娘だったよ、姫様は。芯が強くて、確りしていて。勝気な琥珀色の瞳をした、領民想いの良いお姫様だった。」
「戦乱の世の中だ。解決すべき問題なんていくらでもある。そして、俺たちはいろんなことを解決したんだ。楽しかったな、まるで自分が物語の登場人物になった気がした。俺には未来を掴む腕がない。夢を追う脚もない。でも二人といたときは、二人が未来を拓いていくのを見るのはとても楽しかった。……そして、あんまり鮮やかに問題を解決していくものだから、そのうち『姫様には不可能を可能にする力がある』て噂が立つようになった。」
「二人の王子の戦いは終わらず、国土は荒廃した。やがてあんヤロウが兵を起して、王子たちを撃ち破った。ヤロウってぇのは、いまの王国の初代国王だな。あの野郎、争乱の火種を完全に消し去るためとかいって、王子たちを伸した後、姫様の所領にも兵を向けてきやがった。」
「『王女を差し出せば所領の者たちの命を助ける』とかいっていたが、ありゃ噂に上がった姫様の力が狙いだったな。でもよ、この時代を王女と共に乗り切り、生き抜いてきた俺たちだ。身内にそんな要求に屈する奴ぁ、いなかった。」
「雲霞のごとく迫る敵軍を前に、姫様はこう啖呵を切った『この地を欲するなら、力尽くで奪い取ってみせよ。戦わずして降伏を求めるとは、何と臆病なことか。例え我が斃れようと、我ら最後の一兵まで戦い抜く覚悟だ。』ってな」
「夜明けとともに攻撃が始まった。俺たちは三度の攻勢を三度押し返した。しかし、攻勢の度に仲間は斃れ、ついに四度目の攻勢がかけられた。圧倒的な数に押され、城壁が破られようとしていた。流石に此処までか、このままじゃアランも姫様も皆殺しだ。そう思って、おれは、おれはよ、話したんだ。大魔法使いがおれに追加した機能のことを。」
「俺には未来を掴む腕がない。夢を追う脚もない。大魔法使いみたいに大地を宙に浮かべ、海を割るような力はない。知識だけはあってもよ……結局、何もできねぇんだよ。あの時の俺には、何も出来なかったんだよ。……あの機能以外は。」
「『施しと収奪の呪い』。全く嫌な名前だね。名付けた奴のセンスを疑うぜ、まったくひでぇ名前だ。助けてぇ奴から、それ以上に奪うなんて……ひでぇよ。」
「アランに言ったんだ。「一つを取れば一つを失う」おれの機能のこと。多分、引き換えにすれば救えるんじゃないか、って。」
「そうしたら、アイツなんて言ったと思う?あいつが怒っていることはすぐ分かった。あいつは心から怒ってくれていた。そしてこう言ったんだ。『僕の先祖のことを馬鹿にするな、お前の創造主のことを馬鹿にするな』って、あいつはそう言ってくれたんだ。『お前の創造主は、お前にそんな哀しい声を出させるために機能を仕込むよな男か』って。」
「『お前が僕に教えてくれたような男なら、そんな機能は断らせるための舞台装置に決まってるだろ。そんな美味しいセリフ、『お前の力は借りない、私は二つとも諦めないっ!!』って返しを待っている筈だ。』ってな。」
「ただの強がりだったのかもしれねぇ。……ん?俺の声があんまりにも情けなかったからだって?ははっ、そうかもな。だがよ、これが鍵だったんだ。大魔法使いの仕込みが顕現するための、条件さ。」
「アランの言葉に応えるように、力が溢れたんだ。あの偉大な大魔法使いのような、大地を空に浮かべ、海を割り、山を穿つ、そんな力が。あの野郎、黙ってやがったんだぜ。きっと『そっちの方が楽しめるから』とか、そんな理由だぜ、あれは。」
「アランも俺も最初は驚いた。そして二人で大魔法使いの仕掛けに納得すると、こらえきれず大笑いだ。そしてそれが収まった時、攻めてくる奴らを大いに驚かしてやることにしたんだ。」
「まず大事なのは、音楽よ。はじめは低く響く太鼓の音。戦場の喧騒にも負けない天を裂くような大音量で壮大な荘厳な音楽を流してやった。いったい何事かと敵味方が足を止め手を止めたところで、すくりとアランが城門の上に立つ。」
「すると、戦場のいたるところから、どこからともなく声が湧き『アランだ!』『王女様付きの魔術師のアランだ!』『大魔法使いの血筋を引く、魔術師か』と、敵軍にアランが何者かを丁寧に伝える。無論、俺の力だ。」
「皆の注意を引き付けたところで、アランが天を仰ぎ両腕を広げながら『我が血に宿りし力に助力を乞う、我の捧げる可能性を代価に。姫を、そして皆を守る力を!』と叫ぶ。すると、それに応え『おお、アラン!今こそ、我が力を解き放つ時。見よ、英雄譚の幕開けを!』と雄々しい男の声が天から降る。無論、俺の声だ。」
「アランが手を掲げる。すると雷鳴が轟く中、雷雲の中に巨大な筋骨隆々としたひげもじゃな神の姿が浮かび上がる。神は威厳に満ちた目で戦場を見下ろし、その手には雷の槍が握られていた。雷が激しく閃くたびに、神の姿が陰影を伴って浮かび上がり、どこからともなく響き渡るコーラスと共に、再び大地を揺らすような荘厳な音楽が壮大な光景をさらに引き立てる。無論、俺の演出だ。」
「神は雷の槍を高く掲げ、戦場に向かって振り下ろす。つんざくような雷鳴と共に巨大なエネルギー波が大地を震わせ、斃れた見方は息を吹き返し蘇り、敵兵の武器は地面に吸い込まれると、光の中で消し去った。驚きのあまり立ち尽くす敵兵達、そこにまた、あの雄々しい髪の野太い声が響く『これが、我が力!この力を御せるのは大魔法使いの血を引きしアランのみ!その恐ろしさ知るが良い!』すると、大地が激しく震え始めた。城とその周囲を押し上げるように地面が隆起し、巨大な土の壁が立ち上がり、城壁のように取り囲むようそびえ立った。無論、俺の設計だ。」
「アランが敵軍に向かい声を張り上げる。『この力を御するため、私も少なくない代償を払った。何度もできることではないが、王女様の命を奪うというのであれば、相打つ覚悟で参れ!』ってな」
「いきなり巨大なおっさんが現れ雷を落とすわ、高くそびえる砦が現れるわ、倒したはずの敵が蘇り武器が奪われたもんだから、敵さんはもう大混乱で雪崩を打っての大退却よ。その後は荘厳な音楽が余韻を残し、戦場の静寂が訪れたって塩梅さ。いやー、何度思い返しても、あれは愉快だった。今でも酒の肴になる。」
「その後どうなったかだって?俺たちの力に恐れをなした新しい王家は『願い事をかなえる力』で王国に敵対しないことを条件に、兵を引いたんだ。つまり、アラン達を遠ざけることにした。触らぬ神に祟りなしってわけだな。」
「戦いの理由が『争乱の火種を完全に消し去る』だったから、姫様は領民を守るための代償に死んだことにされたけどよ、本当はアランと共に小さな所領で平穏な人生を送ったんだ。だからいまでもあそこの領主は、あの二人の子孫で大魔法使いの子孫ってわけさ。これが俺の大親友にして、最高の男たるアランの話だ。どうだい?土産のお代に見合った話になったかい?」
―――――――――
某所で連載中のカクヨムに掲載できないエッチな小説
【巨根ハーフ】江戸四十八手で世界を蕩かす。巨根で絶倫のハーフエルフの少年は聖者となる。
https://novel18.syosetu.com/n3442ih/
に、挿話用に書いたものです。
セリフだけで物語を進めてみたら面白いかもと思い、挑戦してみました。
愉しんでいただけたなら、とても嬉しいです。
楽しかった、他の話も読んでみたいと思われましたら⭐︎⭐︎⭐︎評価や作品フォローをどうぞよろしくお願いします!
⭐︎⭐︎⭐︎はページ下部、もしくは目次ページ下部の「星で讃える」から行って下さい。⭐︎⭐︎⭐︎だと嬉しいです〜!
――――――
少しえっちなファンタジー小説
『[はらはむ] 聖女を孕ませ、勇者で孕む。フタナリ王女の魔王復活』
を連載中です。
もしよろしければ、是非遊びにいらしてください。
↓目次ページ
https://novel18.syosetu.com/n4494jp/
【完結済】【短編】どうだい、ご友人。楽しんでくれたか?これで土産のお代に釣り合ったかな? 門東 青史 @kadosei1010
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます