第1話

ジリリリリ…



スマホのアラームが爆音で響く中、僕はベッドの上でひっくり返ったまま、なんとか手を伸ばしてそれを つかむ。

何とかスヌーズを解除して、目を細めながら画面をぼんやり眺める。

「もうちょっと…」って気持ちはあるけど、さすがに遅刻はまずい。

大きく伸びをしてから、渋々重い腰を上げて洗面所へ向かった。


「はあ…しんど…」


鏡に映る自分を見て、無意識にこぼれた一言。

まだ寝ぼけ まなこの僕が、制服のシャツをボタンひとつ飛ばしながら着るのがなんとも あわれだ。

制服を着た自分をじっくり見つめてみるけど、何度見ても似合ってない。

まるでコスプレでもしてる気分だ。

ああ…もう二ヶ月経ったんだっけ…高校生になってさ。

それなのに いまだに新入生気分ってどうなのよ。


リビングに行くと、父さんがちょっとげたトーストをかじりながら、テレビを見ていた。

ニュースが流れてて、不倫 ふりんの話題が出ていた。


「マイナス10,000ポイントか…」って、父さんがぼけーっとした顔で呟いてるけど、いやいや、これって結構デカいんだぞ?

もう何十年も前に制定された「国民恋愛活動強化推進法 こくみんれんあいかつどうきょうかすいしんほう」のおかげで、この国では国民の恋愛が厳しく審査されているんだ。

だから、浮気や二股、不倫なんかのスキャンダルは即座に さらされ、全国民のバッシングの的になっちゃう。

こんなことはほとんど起きないに ひとしいため大々的に報道されてしまうんだ。



ちなみにこの「恋愛ポイント制度」別れただけでも減点されるんだよ?

だから大したことなくても、恋愛に失敗すると人生詰む。

マイナスになれば、会社の信用もガタ落ち、友達からも見放されて、「恋愛できないやつは社会のゴミです」って感じで扱われる。

ふざけてるだろ?

それなら、恋愛なんかしない方がマシだよなーって、いつも思う。


「まあ、父さんには関係ない話だな。なあ、母さん」


父さんの軽口に、母さんがにっこりと笑って、「ええ、今日も大好きよ、お父さん」だって。

やめてくれよ、朝からそんなイチャイチャ見せつけるなっての…。


急いで朝ごはんをかきこんで、「ごちそうさま!いってきます!」と半ば逃げるように家を出た。


イヤホンをつけて音楽を聞きながら駅に向かう途中、前方に同じ制服を着た女子たちが数人集まって、楽しそうにおしゃべりしてるのが見えた。

つい気になって、外部取り込み機能に変え、彼女たちの会話を拾ってみる。


「ねえ、彼とうまくいってる?」


「うん、もう五ヶ月になるよ」


「ええっ!すごいじゃん!ポイントも結構溜まってるんじゃない?」


はいはい、またそれか。

最近の高校生はみんな、恋愛強化法のおかげで恋愛話ばっかり。

もう、どこを見ても恋愛ポイントの話題で持ちきりだ。

はあ、ほんと大人が考えることってバカバカしいよなー。


早く学校に行って、 りょうやさーさんとくだらない話でもして現実逃避げんじつとうひしよ。

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恋愛強化法とひとりの男子生徒の選択 すしやのからあげ @susiyanokaraage

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