最強種に呪われたのは成り上がりの騎士

夢見の破片

最強種の最悪の呪い

長き封印からの目覚め

この世界には最強種と呼ばれる怪物たちが存在していた。

それらは突然発生する災害のように既存の種族たちの中から湧き出るように出現し、そして目に映る全てを蹂躙しながら成長を重ねて強大な力を手にする。

残虐にして暴虐、なににも縛られることなくただそれらは自身の気の赴くままに命を奪い去り命を支配し命を蹂躙する。理性も感情も知性も持ち合わせている、持ち合わせているが故にそれらは自らの絶対的な力を酷悪に振るった。

だが蹂躙の日の目に遭う生命もただ諦観に沈むだけではない。知恵と勇気ある人類が自然の権化たる妖精や精霊たちと手を組み、生きとし生ける生命から力を借り受け、一つに纏まれなかった多くの人類が一つとなって生命を蹂躙しながら世界を闊歩する最強種へと反逆し続けていた。

そうして長い長い時を経て、数多くの犠牲を出しながら、人類たちはほぼ全ての最強種を打ち倒し、そして封印した。封じられたる最強その数は12、より原初に近いが故に当代の人類では倒し切れないと判断して英傑たちがその命を賭して封じた。


後の世の人々のために伝承によって語り継がれた12

その名を覇天、冥雷、死氷、深演、限成、風煙、無炎、堕光、夢現、遊陸、空魔、神刻

名の由来は失伝し、それがどのような存在であるのかというのも欠落した。しかしかつての妖精や精霊と手を組んでいた神話に名を遺す英傑たちが打ち倒せなかったという事実だけは残っている最悪の存在たち。


しかし、それは最早伝承の中だけの存在となった。

封じられてから更に長い時、千では足りないほどの時間が過ぎたが故に封じられた土地を守る人々も伝承を語り継ぐ人々もその存在を信じてはおらず、災害や事故事件を擬獣化しただけの存在だろうと最強種の実在そのものすら信じていない人々が増えた。


故に気付かなかった。

打ち倒せなかった12、その封印が綻んでいるのに。



********************



「魔王ォォォォッッ!!!!」

「勇者ァァァァッッ!!!!」


黒い捻れた角を側頭部から生やした大柄で黒と紫が入り混じった禍々しい鎧に身を包みながら青い血を隙間から垂れ流し赤い光が明滅する身の丈以上ある大剣を片手で振り回す魔族の男と、薄茶色の髪に青い瞳を煌めかせる白と金が入り混じった輝くボロボロの傷跡だらけの鎧に身を包みオーロラのように様々な色に変化しながら輝き続ける長剣を振るう人間の青年。


大柄の魔族は他の魔族と悪魔を率いて人類の殲滅を行うために侵略のために魔大陸より来訪した魔王を自称する正体不明の男。人間の青年は魔王による侵略行為に対抗するため精霊の鍛えた聖剣に選ばれて仲間と共に多くの人々の命を救って来た勇者と呼ばれる男。


人類の殲滅と人類の救済、相反する願いを掲げる二人が互いに敵意を剥き出しにしながらぶつかり合っている。勇者も魔王も互いに血を流して燃え尽きそうになっている命の火を燃やしながら、目の前の相手の命を奪い取らんと衝撃を撒き散らしながらぶつかり合っている。魔王の背後には破壊されて残骸に成り果てた玉座と外壁が積み上がり、勇者の背後にはボロボロで流血しているがそれでも意識をはっきりと残して魔王と勇者のぶつかり合いを見ている仲間が存在している。つまり、背負う物が何もない魔王は背負う物があってそれを一緒に背負ってくれる仲間がいる勇者には勝つことなど出来ないということである。



「死に果てろォォッッッ!!!! 破滅の魔光アポカリプスッッッ!!!!」

「聖剣ッッ解放ッッッ!!!! 極光の一撃アルカディアッッッ!!!!!」



勇者の止まらない連撃は死に物狂いで抗う魔王を追い詰めて行き、そしてそれは魔王が勇者とその仲間ごと纏めて殺し尽くすためだけに自らの命を燃やし尽くしながらの最後の一撃を放つまでに追い込む。空気が歪み、空間が悲鳴を上げるその一撃、それに対して勇者は輝きを増した聖剣を掲げて真正面からぶつかり合う。魔王の暗黒、勇者の極光それらが真っ直ぐと伸びてぶつかり合った瞬間、


ガキン


世界の裏側から何かが壊れる音が世界の全てに鳴り響く。

それと同時に音のなった裏側から何かが飛び出してくる。


「……何年経った...?」


そして魔王と勇者がぶつかり合うその場を巨大な影が覆い、それと同時に重く全てを支配するかのような声色で問い掛けが投げかけられる。その声に反応して死に掛けの魔王と極限にまで疲弊した勇者、そして勇者の後ろで戦いの行く末を眺めていた勇者の仲間は上空を見上げて、それから絶句した。



上空を覆っていたのは巨龍など比べ物にならないほどの巨体を持った龍。大きく広げられたその両翼は上空を見上げている者たちの視界の全てを埋め尽くし、空に輝いていた筈の太陽の輝きの全てを飲み込み悠然と佇んでいる。天の光はその龍によって飲み込まれた、だがその龍の姿は光が無いというのに何故かはっきりと視認することを可能としていた。闇より暗く黒より黒い何もかもを飲み込む龍鱗、煌々と煌めき全てを見下している黄金の瞳、悍ましい程に美しく見ているだけで恐怖が心を支配する銀に輝く爪牙、そしてイラつきを解消するかのように地面を砕いて揺らす三本の龍尾。


「三度目はない。何年経った?」


二度目の問い掛け。それによって死に掛けの魔王に極度の疲弊を感じていた勇者の二人は地面に崩れ落ちるように倒れ伏し、魔王及び魔王の忠臣と戦い疲弊していた勇者の仲間たちもまた地面の上に崩れ落ちていた。意識的にではなく無意識的にそうなってしまうだけの威圧感と恐怖を突如として現れた龍は持っていた。


最強


どう足掻いても勝つことなど出来ない、立ち向かう事自体が愚かなのだ、怯えて竦みただ死を待つ事だけが救いなのだとその場にいてその問い掛けを耳にした生命たちは本能からそのように思い込まされる。その様子を見て少しばかし龍は留飲を下げたのか動き続けていた龍尾の動きを止めて、それからその爪を伸ばして死に掛けの魔王を虫を潰すように容易く潰してから倒れ伏している勇者に目を向ける。


「まぁ良い。あの女の末裔を見つけられそして殺すことが出来る、それで満足として置こうではないか...なぁ?」


そして話し掛けるようにそう言葉を放ち、それから魔王を潰した爪を振り上げてそのまま真っ直ぐと倒れ伏して動けない勇者に向けて振り下ろす。先程の魔王を潰した時のようにではなく、明確な殺意をそこに込めて空気を無残に引き裂きながらその龍の爪は真っ直ぐに勇者へと振り下ろされる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強種に呪われたのは成り上がりの騎士 夢見の破片 @yumeminohahen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ