最後_覚醒
目が覚める、目の前には不審者がいた。
少し考えてから、僕は目を閉じる。
「おいおいおいおい、ちょっと待ちなよ!? なんかお礼とかないの?」
「お礼? なんのことですか?」
「いやいや、昨夜のことだよ!!」
昨夜? 何かあったのか?
ダメだ、学校が終わってから何も思い出せない。
いや、一つわかっていることがある。
頭がズキズキ痛い、死ぬほど痛い。
なんだ、この痛みは?
「記憶障害……、魔眼の副作用か?」
「なんのことですか?」
「ふむ、昨日のことを話そうか」
不審者、確かヨルと言ったか?
彼女がゆっくりと、話を始めた。
魔術師に襲われ、腕を奪われ、そのまま命からがら逃げ出し、お守りに入っていた自動人形が僕を助け、覚醒し、そして最後は死にかけたところへ彼女が助けに来た。
信じられない、だけど。
少なくとも、腕が切断されたのは本当らしい。
ゆっくりと、左腕を見る。
自分の腕にしか見えない、だけど指でなぞればわかった。
これは本当の腕ではない、自分の感覚以上に感覚が鋭敏だ。
もしかすれば彼女の話は本当かもしれない、この魔眼もさっきの話も。
「さて、少年。君に再度尋ねよう、君は魔術師になるか。ソレとも、君は人として生きるか」
「……、答えなんて決まっていますよ」
「口にしなければ思いは伝わらない、当たり前の話だろう?」
ニヤニヤ笑うこの女が鬱陶しい、だがその怒りを飲み込む。
体は忘却していても、心が訴えている。
やはり、最初から僕の答えは確定しておりそれが違うことはない。
「魔術師に、貴方の弟子にさせてくれませんか? 僕はこの目の秘密を知りたいです」
言った、言った、言ってしまった。
もう後戻りはできない、もう引き返すことは許されない。
だけど、怖い。
恐怖を感じる、だけど僕は進むことを確定させた。
引き返すことは許されない、許されても引き返せない。
「よく言った、契約は少年の体調が治ってからにしよう」
「……」
「ああ、あと」
その言葉と同時に、ヨルはゆっくり僕を仕切っているカーテンを開いた。
病室のような、薄い暖色に包まれた部屋。
そこで眠っていたのは僕だけではなかったらしい、寝息も何も聞こえていなかったが誰かそこで眠っていた。
銀色の、美しい少女だ。
美しい、まるで人形のような、完成された静謐さを持つ女性。
身長は170センチ程度、僕よりも少し小さいが女性としては大きいだろう。
布団を被り、静かに静かに眠っている。
一目惚れだった、一瞬で感情が溢れ出した。
好きだ、僕は彼女が好きなんだろう。
溢れる感情がとめどめなく流れ出し、思わず抱きつきたい衝動に駆られる。
ソレを堪えようとしても、できない。
できるはずがない、少なくとも流れ出る涙を堪えることなどできるはずはない。
いつの間にか、目から涙が流れていた。
悲しいわけではない、嬉しいのかといえばそうなのかもしれない。
この感情に合う言葉がない、僕の語彙ではソレを表せない。
「……心は覚えている、っていうわけか。なんとも面白い話だなぁ? 少年、クルミくん」
「僕、名乗った覚えはないんですけど……」
「もうすでに君の名前は聞いたからね、さて明日からは忙しいぞー!!」
ヨルさんの言葉に僕は目を細める、親にはなんて言おうか。
彼女とどうやって話そうか、ソレ以外にも日常という表側でこれから僕はどう言うふうに生活しようか。
考えるべきことはいくらでも、だけどソレら全てを僕は無視した。
今は、生きているだけでいい。
明日からの未来を考えるのは、今でなくていいと。
そう思いながら、僕は再度目を閉じた。
魔眼使いと魔術師 黒犬狼藉 @KRouzeki
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