84 元1番隊、バロール・クラウディス


 対抗戦のメンバーを選抜する部隊内バトルロイヤルは、三日後に行われることになった。


「ちょっと話があるんだが、いいか?」


 その日の訓練が終わると、一人の魔族が俺に話しかけてきた。


 黒髪オールバックで、いかにも伊達男という雰囲気の青年だ。


 バロール・クラウディス。


 中級魔族【ワーウルフ】の眷属であり、俺と一緒に人間界への潜入任務に行った戦友でもある。


「話?」

「場所を変えよう」




 バロールに誘われ、入ったのは3番隊の詰め所から近い酒場だった。


 俺も仕事帰りにときどき寄る店だ。


 良心的な価格と家庭的な味が売りである。


「とりあえず、おつかれ」

「おつかれさま」


 俺たちは杯を交わし合う。


「ふうっ」


 バロールはいい飲みっぷりだった。


 その後、しばらくは世間話が続く。


 まるっきり前世の仕事帰りの飲み会みたいなノリだ。


 人間でも魔族でも、この辺は変わらないのかもな。


 バロールは話し手としても聞き手としても上手で、一緒にいて楽しかった。


 人間界への潜入任務の時はこんなふうに飲むことがなかったから、初めて知る彼の一面だった。


 いい飲み友達になれそうな感じだ。


 とはいえ、今日は飲み会を楽しみに来たわけじゃなく、あくまでもバロールの話を聞きに来たんだ。


 そろそろ本題に移った方がいいだろう。


「で、話って?」

「今度のバトルロイヤルのことだ」


 俺の問いにバロールが言った。


「今度の対抗戦は魔王様や腹心の大幹部が直接ご覧になるそうだ」

「魔王……様と大幹部が」


 ゲーム内におけるラスボスの魔王と、それに次ぐ強敵である三体の大幹部たち。


 彼らが直接見に来るということは、それだけ魔王軍の中で重要度の高いイベントということなんだろう。


「そこで活躍すれば、大きなアピールになる。俺の実力を示すチャンスなんだ」


 バロールが身を乗り出した。


「アピール……? 実力を示すとどうなるんだ?」

「より上位の部隊に移籍するって話も出てくるはずだ」


 バロールがさらに身を乗り出した。


 鼻息が荒い。


「もしかして移籍したいのか、バロール?」


 俺はバロールを見つめた。


「寂しいな。仲間だろ」

「別にこの部隊に不満があるわけじゃない」


 バロールが言った。


「ただ、俺はもともと別の部隊にいたんだ」


 彼の話は以前にも少し聞いたことがある。


 けれど、詳しく聞くのはこれが初めてだった。


 ――バロールはもともと魔王軍第一騎士団の1番隊に所属していたそうだ。


 騎士団の中で最強と謳われる【第一騎士団】。


 その中でトップエリートが集まる1番隊――つまり魔王軍における精鋭中の精鋭だ。


「といっても、正式な決定じゃなく、実質的にはお試し期間のような状態だったが……ともかく、俺は数か月の間、第一騎士団の1番隊に所属した」


 凄いことだと思う。


 俺は素直に敬意を抱いた。


「ただ……まあ、なんだ。その後、俺は……転属になった……」


 バロールは急に言いづらそうに口ごもった。


 転属――要は1番隊に所属するには能力不足とみなされ、他の隊に再配属された、ってことか。


 一種の降格人事、あるいは左遷って感じだろうか?


「俺は正直ショックだった。ただ、諦めたわけじゃないんだ。もう一度あの場所に――1番隊に戻りたい」


 熱弁するバロール。


「だから、俺は必ず対抗戦のメンバーに選ばれてみせる――まあ、俺の実力をもってすれば、選出は固いが……」

「自信あるんだ?」

「も、もちろん」


 あれ? ちょっとうろたえたぞ?


「ただ、バトルロイヤルは一対一の戦いと違って、実力者が意外な伏兵に足をすくわれて敗退する……なんて展開もありうるだろ。それがちょっと心配でね」

「なるほど……確かに、俺も一対一の戦いには慣れてるけど、そういう多数が入り混じる戦いってあんまり経験ないな」


 肝に銘じておかねば。


「そこで相談なんだが……手を組まないか?」

「えっ」

「お前だって格下相手に思わぬ不覚は取りたくないだろう。けれど、一人ではどうしても不注意であったり、集中力が一瞬欠けた状態を狙われることだって起こり得る」

「そのリスクを減らすために手を組む……か」


 俺の言葉にバロールはニヤリとうなずいた。


 さて、どう返答するか――。




****

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