魔族のモブ兵士に転生した俺は、ゲーム序盤の部隊全滅ルートを阻止するために限界を超えて努力する。やがて下級魔族でありながら魔王級すら超える最強魔族へと成長する。
63 これから、ミラが目指す道4(ミラ視点)
63 これから、ミラが目指す道4(ミラ視点)
ミラは中級魔族【ソニックブレイダー】という種族だ。
この種族の特性は一にも二にも『スピード』だった。
ただしパワーにおいては剣士系魔族の中で最低ランクのため、攻撃の破壊力は低い。
あくまでもスピードで相手をかく乱し、ダメージを積み重ねて倒す……というのが【ソニックブレイダー】にとってのオーソドックスな戦術だった。
ミラもその基本に則り、自身の戦闘スタイルを組み立てている。
とはいえ――雑魚が相手ならともかく、より強い敵になってくると『攻撃力の低さ』は致命的なハンデとなる。
いくら攻撃しても相手は元気なまま。
逆にスピードを使って駆け回るミラは、どんどん疲労がたまっていく。
動きが鈍ったところで相手の一撃を受け、あえなく敗北――。
訓練において、ミラはそんな場面を嫌というほど味わってきた。
勝てない。
上には上がいる。
ミラにとって、魔王軍の入ってからの数十年は挫折に彩られていた。
それでも――ミラには夢があった。
強くなること。
それも『最強』になることだ。
人間界での潜入任務で友であるレキを失い、その思いはより鮮明になった。
レキもまた、ミラとは動機が違うものの、同じく『強さ』を目指していたからだ。
彼女の分まで、ミラは『強さ』を目指したい。
決意を新たに、ミラは魔界に戻ってから今まで以上に修行に打ち込んだ。
基礎訓練と模擬戦を交互に行い、そして模擬戦では何度も何度も敗れた。
敗北の中で、ミラは悟った。
結局、自分には『スピード』しかない。
ならば、この武器を徹底的に磨き上げよう、と。
絶対の必殺武器にまで昇華しよう、と。
そうして三か月の修行の果てに、ミラはついにたどり着いたのだ。
高速移動術の奥義――【ソニックムーブ】に。
さらに、その勢いを利用して斬撃を加速させる攻撃スキル【音速斬撃・霧雨】に。
「はあああああああああああっ!」
ミラの二本の剣は音速をも突破して、最上級魔獣【ザレグランザ】に迫る。
魔獣はその速度にまったく反応できてない。
「終わりだ、魔獣!」
ミラは勝利を確信して左右の剣を叩きつけた。
がきいいいんっ。
鈍い音を立て、彼女の斬撃は弾き返された。
「くっ……!?」
【ザレグランザ】の体表を覆う装甲には、わずかな傷がついたのみ。
「効かない……!?」
いや、効いてはいる。
が、あまりにも薄い。
「俺の攻撃じゃ、破壊力が足りない……ってのか!」
結局はここでも、彼女は種族の壁に、才能の壁に跳ね返されるのか。
懸命の修行で編み出した新たな奥義をもってしても。
『破壊力のなさ』という致命的な弱点を克服しきれないのか――?
「ちくしょう……」
うなだれる。
力のなさが悔しかった。
才能のなさが、ただ悔しい。
「まだだ!」
と、前方から叫び声が聞こえた。
ゼルだ。
「まだ終わってないぞ! 戦え、ミラ!」
どうやらゼルの方は魔獣を片付けたようだ。
「その技には、まだ『先』がある――!」
****
〇『死亡ルート確定の悪役貴族 努力しない超天才魔術師に転生した俺、超絶努力で主人公すら瞬殺できる凶悪レベルになったので生き残れそう』
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