魔族のモブ兵士に転生した俺は、ゲーム序盤の部隊全滅ルートを阻止するために限界を超えて努力する。やがて下級魔族でありながら魔王級すら超える最強魔族へと成長する。
64 そして、ミラは明日へ踏み出す(ミラ視点)
64 そして、ミラは明日へ踏み出す(ミラ視点)
「俺の技に……『先』がある……?」
ミラはハッと顔を上げる。
【音速斬撃・霧雨】は今の彼女が使える最高のスキルだ。
少なくとも現時点でこれ以上のスキルは使えない。
また何年も修行すれば、あるいは新たなスキルを編み出せるかもしれないが、この場でそれ以上のスキルを繰り出せと言われたら、絶対に無理だと断言できる――。
「……無理だ。俺には、これ以上の技は……」
「コンボスキルだ」
ゼルが言った。
「コンボ……なんだって?」
「俺が普段使っている戦法さ。二つ以上のスキルを組み合わせ、新たなスキルを発現する――」
と、ゼル。
「……お前の【バーストアロー】と【スカーレットブレイク】のことか?」
「君にも同じことができるはずだ」
「できるかよ! そんな器用なこと!」
ミラは思わず叫んだ。
「そういうのは、お前みたいな天才だけができることだろうが! 俺は……お前とは違うんだ」
「違わないさ」
ゼルは静かに首を振った。
「必要なのはタイミングと……イメージなんだ。コンボスキルはゲームでの普遍的な技。俺以外でも、本来なら全員ができるはずなんだ」
「げえむ……?」
ゼルの言葉は一部意味不明だったものの、言いたいことは伝わる。
コンボスキル――複数スキルの連係技は、彼だけが使える天才的な技術ではなく、もっと普遍的な戦法に過ぎないのだ、と。
「なら、俺にもできるのか……?」
「できるさ。『できる』というイメージを持つことが、コンボスキルには重要だ。俺もそうやって使ってる」
ゼルが言った。
ぐるるるるおおおおおおおおおおんっ。
と、魔獣がうなり声を上げた。
先ほどまでゼルを警戒していたようだが、ミラに狙いを定めたようだ。
来る――!
ミラは二本の剣を構えなおした。
「……分かった。じゃあ手を出すなよ、ゼル」
胸の中に熱い炎が宿っているような感覚。
彼の言葉が――彼が与えてくれたヒントが、ミラの中に闘志をよみがえらせてくれた。
「感謝するぜ」
だが、だからこそ――ここはミラ一人でいく。
「俺一人で勝たなきゃ、今の俺は超えられない」
「ああ、君ならできる――」
ゼルが見守ってくれている。
「へっ、当たり前だろ!」
叫んで、ミラは駆けだした。
ミラが使えるスキルの中で最も強力な攻撃技。
それは【超速斬撃・十二連】だろう。
ゼルのスキル【高速斬撃・六連】を見て、それを自分なりに二刀流で再現した奥義だ。
(ゼルのスキルを見て、学んだんだ……俺は)
走りながら、ミラは考える。
そう、彼女はゼルの戦い方から学び取り、戦いに敗北したときにはゼルに支えられ――彼から多大な影響を受けてきた。
親しくなった期間こそ短いが、ミラの中で彼の存在は大きなものだ。
(俺は――いつの間にか、お前に憧れていた)
ゼルの強さに、戦う姿勢に、憧れていた。
そしてゼルのようになりたい、と願うようになった。
「そうだ、俺もお前のように――」
脳裏に彼がコンボスキルを使う時の姿が浮かぶ。
ミラはその姿を何度も何度も心の中で繰り返し思い浮かべてきた。
初めて目にしたときから、来る日も来る日も。
そして、そのイメージはミラの中に強く焼き付いている――。
「だったら、俺も! 俺にだって!」
できるかもしれない。
彼のようなコンボスキルが。
るおおおおおんっ!
魔獣との距離はすでに数メートルにまで迫っていた。
「【ソニックムーブ】!」
ミラは高速移動スキルを発動し、一気に距離を詰める。
ここから勢いに乗って剣を繰り出すのが【音速斬撃・霧雨】である。
ただ、この技は先ほど通用しなかった。
「だから、もう一手――必要なんだ」
ミラは二本の剣を掲げた。
【ソニックムーブ】の状態で、さらに攻撃スキルを発動する。
――【超速斬撃・十二連】。
高速移動状態から発動したそれは、今までとは桁違いの破壊力を伴い、魔獣に叩きつけられる。
「いっけぇぇぇっ、これが俺の――【音速斬撃・
音速を超えた十二連撃が、魔獣の強固な装甲を、そしてその下の体をもズタズタに斬り裂いた。
「はあ、はあ、はあ……や、やったぜ」
ミラはその場に大の字になって倒れた。
全身の筋肉が悲鳴を上げている。
もはや指先すら動かせない。
「こりゃ……まだまだ改良が必要だな。こいつを使った後は、完全に無防備だ」
ミラは苦笑した。
確かに今の【音速斬撃・霧雨弐式】は強力無比なコンボスキルだが、仮に外したり、敵を仕損じたりした場合、相手の反撃を受けて確実にミラは殺されるだろう。
「だけど、まあ……今回は俺の勝ちだ。ははは……改良案はいずれ考えるとするか」
体は疲労の極限にあるが、精神はこの上なく高揚していた。
と、
「今の――すごかったな、ミラ……!」
ゼルが驚いた顔をしている。
彼にこんな顔をさせられたなら、自分も少しはやるようになったということだろう。
「へへっ、見たか」
ミラはとびっきりの笑顔をゼルに向ける。
ゼルも彼女に向かって、うなずき――。
――しゅんっ。
その姿が、唐突に消えた。
「えっ……?」
忽然と。
その場から消え失せたのだ――。
****
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