58 三か月後、俺はさらに強くなっている

「魔獣討伐任務、ですか?」

「ええ。最上級魔獣【ザレグランザ】。以前にもゼルくんが戦ったことのある相手――上級魔獣【ディグランザ】のさらに上位種よ」


 と、ラヴィニア隊長。


「あの【ディグランザ】の……」


 よく覚えている。


 俺が前世の記憶に目覚めた後、初めての任務で戦った魔獣だ。


 厳密に言うと、討伐対象は【ボランザ】という中級魔獣で、その後に新たに現れたのが上級魔獣【ディグランザ】だ。


 その強さは中級魔獣とは桁違い。


 討伐任務に就いていた魔族が次々と蹴散らされる中、俺は異空間闘技場に迷い込んだ。


 そして、そこで力を磨き、上級魔獣を討ち取ることができた。


 そういえば、あれから異空間闘技場は一度も出ていない。


 力を磨くためにも、また行ってみたいんだけど――。


「今回は、さらに強いってことですか?」

「ええ、魔獣の中でも最上位の種族よ。こっちも精鋭ぞろいで臨むことになるわ」


 と、ラヴィニア隊長。


「いくつかの隊の共同任務で、3番隊からも数名の精鋭を出すことになっているの。ゼルくんにもお願いできるかしら」

「ラヴィニア隊長の頼みとあらば、喜んで」


 俺はにっこり笑った。


「頼もしいわね」


 ラヴィニア隊長が目を細めた。




「う、うわぁぁぁっ……」

「つ、強い――」


 俺が現場に行くと、既に先遣隊が戦いを始めていた。


 間に合わなかったか――。


 俺は急いで前に進む。


「ひ、ひいっ……」

「まずいぞ、撤退――」


 前列の魔族たちが次々に逃げてくる。


 その向こう側に、黒い装甲に覆われた小山のように巨大な四足獣の姿が見えた。


 バチッ、バチィッ!


 全身に稲妻をまとい、スパークがはじけ散っている。


 あれが最上級魔獣【ザレグランザ】か。


「みんなは下がっていろ。俺が始末する」


 パニックになりかけている彼らを、俺が制した。


「け、けど、あいつは強い……」

「集団でかからないと無理だろ……」


 魔族たちはいずれも弱気だ。


「問題ないさ。俺が前に倒した奴と、そんなに差はなさそうだ」


 と、みんなを安心させるために、俺は軽い口調で言った。

 と、


「ちぇっ、またお前がいいところを持って行くのかよ」


 拗ねたようなミラ。


 彼女も今回の任務に同行しているのだ。


「君は隊員たちを守っていてくれ。俺が前に出る」


 剣を手に、俺は最前列に立った。


 魔獣【ザレグランザ】と向かい合う。


「【バーストアロー】!」


 手にしたナイフを砲弾のごとき勢いで投げつけた。


 ――人間界潜入任務から三か月。


 俺はあの日から自分をさらに鍛え続け、新たな技をいくつも生み出していた。


 以前は剣を使用していたこのコンボスキルを、今は投げナイフで代用している。


 とはいえ、単純に武器を持ち替えただけでは成立しない。


 本来は剣を使用するスキルをコンボの中に組み込んでいるからな。


 だから、投げナイフを使っても剣を使ったときと同じ威力になるよう、近似したスキルを使用したり、タイミングをいじったり……と工夫を重ねて編み出した改良型の【バーストアロー】――。


 それが今使っている新たな【バーストアロー】だ。


 さらに、


「【バーストアロー】!」


 俺はもう一本、ナイフを投げつけた。


 以前のこのコンボ技は、剣を使っている関係上、連射はできなかった。


 一度使った剣は、簡単には回収できないし、剣を何本も装備するのは現実的じゃない。


 だけど、小さな投げナイフなら何本も携帯できるから、こうやって連続使用も可能なんだ。


 ぐおおおお……んっ。


【ザレグランザ】は左右の肩を撃ち抜かれ、動きが鈍る。


 とはいえ、さすがに装甲は厚く、この二発だけで決定打にはなりそうになかった。


 これが【ディグランザ】辺りなら、既に倒せていたかもしれないけど――さすがに最上位魔獣は瞬殺とまではいかないか。


「なら――接近して斬るだけだ」


 俺はすかさず【突進】した。


「奴の装甲は対物理特性を備えている! 斬撃はほとんど通じないぞ!」


 隊員の誰かが叫んだ。


「ほとんど通じない?」


 俺はさらに踏み込む。


「じゃあ、少しは通じるってことだろ?」


 ならば、どうするか?


 それでもなお通用するほどの強力かつ鋭利な斬撃を放つ――。


「【スカーレットブレイク】!」




****

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