59 最上級魔獣を一蹴する

【スカーレットブレイク】。


 相手の攻撃を見切り、弱点に向けて渾身の一撃を叩きこむコンボスキル。


 決まれば強力極まりない一撃を放てるし、騎士団長クラスのルインをも敗った必殺技だ。


 ただ、正確に攻撃を当てるのが難しく、失敗した場合は相手の反撃をモロに食らってしまう。


 リスクの高い技でもあった。


 けれど【スカーレットブレイク】の破壊力はやはり魅力的だ。


 だから、俺はこの技のリスクをいかに減らし、確実性や精度を上げられるか……という修行を重ねてきた。


 そして【バーストアロー】と同じく、この【スカーレットブレイク】についても改良技を生み出すことができた。


 相手の弱点を【見切り】、正確にその場所に斬撃を叩きこむ。


 ざんっ!


 いくら物理防御能力が高かろうと関係ない。


 俺の剣は、一撃で最上級魔獣を両断していた。




「すげぇな、ゼル!」

「もうすっかり隊のエースね」

「まさか、魔獣を単騎であっさり撃破とはな……」


 他の隊員たちは一様に驚いている。


「いや、まだ甘い」


 俺は満足していなかった。


 もっとだ。


 もっと強い力が要る。


 仲間たちを誰も死なせないために。


 そして何よりも、2年半後に迫ったこの隊の『全滅ルート』を防ぐために。


「仲間が死ぬのは、二度と御免だからな」


 レキの死を通じて、仲間の死をよりリアルに体感し、イメージするようになった。


 同時に、自分が強くなるための動機がより明確になったんだ。

 と――、


「新手だ!」


 誰かが叫んだ。


 見れば、前方からさらに二体の【ザレグランザ】が歩いてくる。


「二体か……」


 それぞれが十時の方向と三時の方向から別々に進行してくる。


「同時に相手をするのは無理だな……」


 魔術師タイプの魔族なら、遠距離から二体同時に攻撃することもできるだろうが、あいにく俺は剣士だ。


 基本的には剣の届く範囲にしか攻撃できない。


 二体をそれぞれ【バーストアロー】で攻撃したとしても、このスキルだけで最上級魔獣を撃破するのは、やはり難しいだろう。


「接近して叩き斬るしかない……!」


 となると、一体ずつしか倒せないわけだが――。


「右の奴は任せた。左は俺がやるぜ」


 ミラが進み出た。


「まさか、一人でやる気か?」


 俺は驚いて彼女を見た。


 ミラが強いことは知ってるけど。今回はさすがに相手が悪い。


「大勢で行ったところで無駄に犠牲が出るだけだろ」


 ミラが俺をにらんだ。


「だからお前だって自分でなんとかしようとしてるんだろ? けど、二体同時は無理だ。だから、一体は俺がやる」

「ミラ……」

「俺の言ってること、間違ってるか?」

「――自信がある、ってことか?」

「舐めるなよ。俺を誰だと思ってやがる」


 ミラはニヤリと笑った。


「それに――レキが死んでから、俺だって修行してきたんだ。二度と仲間を失わないために」

「ミラ……!」

「強くなった俺を見せてやるぜ。もしかしたら、もうお前を超えてるかもな」


 ミラが自信たっぷりの様子で言った。


「分かった。任せるよ」


 言って、俺は走り出した。


「君を信じてる」

「俺もだ。お前の強さは、よく知ってるからな」


 そう言って、ミラも走り出した。




****

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