57 帰還


 その日、俺たちは任務を終えて、魔界に帰ってきた。


 レキが死んだ後は、俺とミラ、バロールの三人で引き続き任務をこなし、一定の調査結果を持って、今戻ってきたわけだ。


「お前、それ――」

「レキの遺骨だ」


 俺は小さな箱を軽く掲げてみせる。


「だな」

「埋葬場所はどこがいいかな」


 と、バロール。


「3番隊にちなんだ場所か?」

「……いや、レキの実家だろう」

「ああ、そりゃそうか」


 答えた俺に、ミラは小さくうなずいた。


「彼女の生まれ育った場所に……彼女を帰してあげよう」

「……だな」

「……それでいいと思う」


 俺たち三人はうなずき合い、それから進み出した。


 ――レキ、もうすぐ故郷に帰れるぞ。




 一週間が、経った。


 レキの埋葬を終え、俺はその日も3番隊の鍛錬場で修行をしていた。


 人間界では、あれからも何度か『成長カプセル』のあるダンジョンを巡ったおかげで、俺のステータスはさらに上がっている。


 すでに高位魔族並か、それに近い能力があるはずだ。


 けれど、強くなった喜びとか充実感はなかった。


 胸の内にあるのは、常にレキのことだ。


 大切な仲間を死なせてしまった――。


 自責の念が俺の中にずっとくすぶっている。


 俺がもっと強ければ、彼女を守ることができたはずなんだ。


 レキが死んだのは俺のせいだ。


 そう考えると、呼吸が苦しくなる。


 胸が苦しくなる。


「俺は……まだまだ弱い」


 ステータスは上がったけど、目指す場所はもっと先だ。


「もう二度と仲間を失わないために、俺はもっと――」


 強くなってみせる。

 と、


「……ここにいたの、ゼルくん」

「ラヴィニア隊長」


 俺は剣の素振りを中断した。


 もともと素振りは日課だったけど、人間界への潜入任務以降は、その本数を三倍に増やしていた。


「ちょっといいかしら」


 隊長に促され、俺たちはひと気のない物陰まで移動した。


「君のことだから、レキちゃんのことを気にしてるんじゃないか、って思って」

「ご心配をかけてすみません」

「君は確かに強いけれど、繊細なところがあるように見えるからね」


 ラヴィニア隊長が微笑む。


 どこか寂しさを含んだ笑みだ。


「あいつは……以前ラヴィニア隊長に命を救われたそうです。けれど、その戦いがトラウマになって、戦場に立つのが怖くなった、って」

「そうね。私も彼女から聞いているわ」

「でも、あいつはそれを克服しようとしていた。俺はそんなレキの助けになりたかった。そして、マリエルたちとの戦いで、レキは見事に目覚めた――」


 俺はあの時の戦いを回想する。


「レキは、強かった。自分の中の弱い部分を乗り越えて、強くなれたんです。これから、もっと強くなるはずだった……あいつには、きっと輝かしい未来があったはずなのに……」

「……もし君が責任を感じているなら、その必要はないわ」


 言って、ラヴィニア隊長が俺を抱き寄せる。


 周囲がざわめいたが、


 レキが死んでから、ずっと心の中に渦巻いていた苦しみや痛み、そして胸の中心にポッカリ穴が開いたような喪失感――。


 それらが少しずつ和らいでいくのが分かる。


「ラヴィニア……隊長……」


 俺はしばらくの間、彼女のぬくもりを感じ、その心地に浸っていた。



****

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