満点の星空の迷子⭐︎転生貴族が婚約者の妹に恋をして、追放してから星になるまで

Y.Itoda

⭐︎

*異世界恋愛の短編、初投稿です。

異世界恋愛、猛勉強中なんで、気軽に感想頂けると嬉しいです。

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 目を覚ましたら、ぼくは異世界の貴族の屋敷にいた。

 名前は、


 アレクサンドル。


 大きな窓から差し込む陽光が、彼の顔を優しく照らしていた。

 窓の外には、美しい中世の街並みが広がっている。石造りの家々、遠くに見える城、その周りを囲む緑豊かな森。まるで絵画のような風景だ。


「うーん、もう朝か…」


 アレクサンドルはベッドから起き上がり、柔らかなカーペットの上に足を下ろした。

 彼は転生する前の生活を思い出しながら、少し気が抜けた表情を浮かべる。前世では、忙しい仕事に追われていたけれど、今は異世界の貴族として悠々自適な生活を送っている。


「おはようございます、マスターアレクサンドル様」


 屋敷の執事、ジョナサンが控えめに扉を開けながら、笑顔で挨拶する。


「おはよう、ジョナサン」


 アレクサンドルはジョナサンに目を向け、気だるそうに応じた。

 貴族としての生活は、表向きは華やかで贅沢だが、彼にとっては心の底から楽しめるものではなかった。どこか空虚な感じが漂っていた。


「今日もご予定は詰まっております。まずはお食事の準備を整えました」


「うーん、ありがとう」


 ベッドから立ち上がり、窓の外を眺めながら、少し考え込む。「本当にこのままでいいのかな?」と自問自答する日々が続いていた。貴族の生活は華やかだが、彼には心からの満足が欠けていたのだ。

 まるで霧の中にでも迷いこんだように、ジョナサン訊く。


「ジョナサン。君は毎日、楽しいかい?」



 城の庭園での出会い。


 その日、アレクサンドルは屋敷の広大な庭園での散歩を楽しむことにした。

 庭園の花々が色とりどりに咲き乱れ、鳥のさえずりが耳に心地よかった。その風景に、心の中のちょっとした疲れを癒されるような気がした。


「今日は本当にいい天気だな。」


 そう呟きながら歩いていると、突然、誰かが声をかけてきた。


「おはようございますっ!」


 振り向くと、目の前にいたのは婚約者の妹、リリアだった。

 彼女は陽気な笑顔を浮かべ、花のように明るい雰囲気を持っていた。


「リリアさん、おはよう」


 笑顔で応じるが、どこかぎこちない感じがした。リリアは純粋な目を輝かせながら、近づいてきた。


「今日はお散歩中ですか?」

「ええ、そうなんだ。君も?」

「はい、花の手入れをしていたんです。庭園がとても美しくなりましたね。」


 リリアはそう言いながら、手に持っていた花を指差した。その目は真剣で、花に対する愛情がひしひしと伝わってきた。


「リリアさん、花の世話が得意なんですね」

「はい、家族からも褒められることが多いんです」


 彼女はにこやかに答え、アレクサンドルはその純粋な姿に少し心を動かされる。リリアの存在が、何だか、日常に新たな風を吹き込むような気がした。



 一緒に過ごす時間。


 その後、アレクサンドルとリリアは一緒に庭園を散策しながら、さまざまな話をした。リリアは自身の趣味や家族について語り、アレクサンドルも徐々に心を開いていった。


「リリアさん、君と話していると、なんだか楽しいな」


 アレクサンドルは心からの笑顔を浮かべながら言った。リリアの話し方や考え方に、彼は自然と引き込まれていった。


「私もです。アレクサンドル様と過ごす時間がとても楽しいです」


 リリアの言葉に、アレクサンドルの心はさらに温かくなった。彼の中で、リリアに対する感情が深まっていくのを感じていたのだった。


 この日から、アレクサンドルとリリアの関係は少しずつ変わっていく。二人は心を通わせ、特別な時間を共有するようになった。それは、アレクサンドルにとって新たな希望の兆しとなっていた。


 アレクサンドルとリリアの関係は、毎日のように進展していた。

 庭園での散策が日課となり、二人の会話はどんどん弾むようになっていった。

 その日も、アレクサンドルは庭園でリリアと会う約束をしていた。

 天気は晴れ渡り、空は青く広がっている。風が心地よく、花の香りが漂っていた。


「おはよう、リリアさん!」


 アレクサンドルが庭園に到着すると、リリアがすでに待っていた。彼女は一段と美しいドレスを着ており、太陽の光を受けて輝いていた。


「おはようございます、アレクサンドル様!」


 リリアは笑顔で手を振り、アレクサンドルは彼女に近づくと、自然と笑顔がこぼれた。


「今日はどこに行こうか?この前の花壇も良かったけど、今日は新しい場所に行ってみたい気分なんだ」


「それなら、裏の森に行ってみましょう。ここから少し歩くと、とても美しい場所がありますよ」


 リリアはそう言って、アレクサンドルの腕に軽く触れた。その感触に、アレクサンドルの心臓が少し早く打ち始めた。



 裏の森でのひとときは、満点の星空の中に一緒に迷子になったみたいだった。


 二人は、庭園を抜けて裏の森へ向かう道を歩き、森の入り口に立つと、まるで別世界に踏み込んだような錯覚を覚えた。

 木々の間から漏れる光が、地面に美しい模様を作り出している。


「すごいですね…まるで絵本の中の世界みたい」


 アレクサンドルは感嘆の声を上げた。リリアも頷きながら、その美しさを共感しているようだった。


「ここは私のお気に入りの場所です。時々、ここで本を読んだり、考え事をしたりするんです」


「そうなんだ。リリアさんは、静かな時間が好きなんですね。」


「はい、そうです。アレクサンドル様も、ここで過ごすと落ち着けるでしょう?」


 アレクサンドルは頷きながら、リリアの顔をじっと見つめた。彼女の瞳には、自然と純粋な輝きが宿っていた。


「うん、確かに落ち着くよ。リリアさんがここで過ごす理由がわかる気がする」


 リリアは少し頬を赤らめ、視線を外した。アレクサンドルはその様子に心が温かくなるのを感じた。



 そして、ぼくは、夜、告白をする決心をした。


 その日の散策が終わり、夜が訪れる。アレクサンドルは、リリアに別れを告げる時間が近づくにつれて、心の中で葛藤していた。

 リリアに対する感情が、単なる友情を越えていることに気づいてしまったのだ。


「リリアさん、少し話があるんだ」

「はい、どうしたんですか?」


 リリアはアレクサンドルの真剣な表情に気づき、少し不安そうな顔をしていた。

 二人は庭園の片隅に座り、静かな夜の空気に包まれていた。


「リリアさん、君と過ごす時間が本当に楽しいんだ。でも…」


 アレクサンドルは言葉を詰まらせ、どう話を切り出そうかと考えた。リリアはじっと彼を見つめ、その目には期待と不安が入り混じっていた。


「でも、何ですか?」

「でも、君と過ごす中で、僕の中に湧き上がる感情があるんだ。それは…単なる友達の感情じゃない」


 深呼吸をし、決心を固める。


「リリアさん、僕は君のことが…」


 その瞬間、リリアの目が大きく見開かれ、彼の言葉を待っていた。アレクサンドルは思い切って、彼女の手を優しく取った。


「僕は君のことが好きだ。心から君と一緒にいたいと思っている」


 リリアの顔が赤くなり、驚きと喜びが入り混じった表情を浮かべた。


「アレクサンドル様…私も、同じ気持ちです」


 リリアは小さく微笑みながら、その手をアレクサンドルの手の中で優しく包み込んだ。

 二人の心は、夜の静けさの中で一つになり、これからの未来に希望を抱きながら、甘い感情に包まれていた。


 リリアとの告白が終わり、アレクサンドルはこれからの未来に希望を抱いていた。だが、その穏やかな日々は長く続かなかった。彼の心は、突然訪れた危機にさらされることになる。



 そう。

 婚約者だ。


 ある日、アレクサンドルは庭園でリリアといつものように散策していた。空はどこまでも青く、風は穏やかだった。しかし、その平和な時間は、突然訪れる異変によって破られることになる。


「アレクサンドル様、今すぐに家に戻ってください」


 ジョナサンの声が、庭園に響き渡った。アレクサンドルとリリアは驚きの表情を浮かべ、彼の元へ急いだ。


「どうしたんですか、ジョナサン?」


「婚約者の姉、カトリーヌ様が急にお越しになりました。ご家族も集まっており、何やら重要な話があるようです。」


 ジョナサンの顔には、いつもの冷静さが欠けていた。アレクサンドルの心に不安が広がり始めた。


「カトリーヌ様が…?」


 リリアの顔にも心配が色濃く現れた。アレクサンドルは彼女に短く微笑みかけ、家へと急ぐ決意を固めた。



 屋敷に戻ると、家族が集まった部屋で、カトリーヌが待っていた。彼女の姿は威厳があり、高貴な雰囲気を漂わせていた。その表情には、厳しい決意が宿っていた。


「お待たせしました、カトリーヌ様」


 アレクサンドルが部屋に入ると、カトリーヌが一歩前に出てきた。


「アレクサンドル、ここに呼ばれた理由を説明しよう」


 カトリーヌは冷徹な目でアレクサンドルを見つめながら言った。アレクサンドルは心臓が激しく鼓動するのを感じた。


「実は、最近のあなたの行動が問題視されている。特に、リリアと親しくしていることが家族の名誉を損なうと考えられている」


 アレクサンドルは目を見開いた。心の中に冷たい衝撃が走り、体が硬直する。


「そんな…どうして?」


「この家族には、貴族としての名誉を守る義務がある。あなたがリリアと不適切な関係にあることが知られると、家族全体に悪影響を及ぼす」


 カトリーヌの言葉は、鋭い刃のようにアレクサンドルの心に突き刺さった。彼はリリアの方をちらりと見ると、彼女の顔には悲しみと驚きが入り混じっていた。


「それで、どうするつもりなんですか?」


 アレクサンドルは冷静を装いながらも、内心では混乱していた。カトリーヌは一瞬の沈黙の後、冷酷な言葉を続けた。


「アレクサンドル、あなたを一族から追放する。これ以上、家族に害を及ぼさないようにするためだ」


 その言葉を聞いた瞬間、アレクサンドルの心は砕けた。人生が一瞬で崩壊したような感覚に襲われた。



 追放の決定。


「そんな…一体どうして…」


 アレクサンドルは呆然とつぶやいた。カトリーヌの冷たい視線が彼に突き刺さり、その決定が揺るぎないものであることを示していた。


「決定は覆らない。さっさと荷物をまとめ、屋敷を出て行きなさい」


 カトリーヌの言葉に、アレクサンドルは深い絶望感に襲われた。家族、地位、そしてリリア…全てが失われる。目を閉じて、心の中で涙を流しながら、小さな声で呟いた。

 それに、今更ながら、婚約者のマリベッサに申し訳ないと思う自分は、どこまでも最低な男なのだと自覚する。


「わかった…わかりました」


 と、アレクサンドルは声を震わせ。マリベッサにも謝罪の気持ちを伝えてほしいことを頼んだ。




 アレクサンドルは短時間で荷物をまとめ、屋敷を出る準備を整えた。リリアも彼の元に駆け寄り、涙を浮かべていた。


「アレクサンドル様…どうしてこんなことに…」


 リリアの声は震えていた。アレクサンドルは彼女の手を取り、深い悲しみを込めた目で見つめた。


「リリアさん、君に迷惑をかけてしまってごめん…」


「私も、アレクサンドル様のことが…」


 リリアは言葉を詰まらせながらも、アレクサンドルに抱きついた。彼はその温もりを感じながら、心の中で痛みをこらえた。


「もう…別れの時間だ」


 アレクサンドルはゆっくりとリリアから離れ、振り返りながら屋敷を見上げた。家族と過ごした日々、リリアとの思い出が脳裏に浮かび、涙がこぼれ落ちた。


「ありがとう、リリアさん」


 彼は一歩一歩、屋敷から遠ざかっていった。背後には、失われたものたちの影が深く刻まれていた。そして、彼は新たな未来に向けて、暗い夜道を一人歩き出した。



 アレクサンドルは追放された後、静かな田舎の村で新しい生活を始めた。

 広がる風景は彼が知っていた貴族の生活とはまったく異なり、ここには自然が広がっていた。彼の新しい家は、素朴で小さな家だった。庭には草が生い茂り、木々が静かに風に揺れている。



 村での生活は。


 朝の光が家の窓から差し込み、アレクサンドルはその光に照らされながら目を覚ました。新しい生活が始まったことを実感する一方で、心の中に残る痛みが消えない。


「うーん、やっと目が覚めたか」


 アレクサンドルはベッドから起き上がり、周囲を見渡す。新しい家の内装はシンプルで、必要最低限の家具しかなかった。それでも、どこか落ち着く空間だった。


「さあ、今日はどこから始めようか。」


 彼は心の中でそうつぶやきながら、外に出てみると、青空と緑が広がる田舎の風景が広がっていた。新しい生活には、まだまだ慣れなければならないことが多い。



 そんなある日、アレクサンドルはポストに届いた手紙を見つけた。

 封筒にはリリアの名前が書かれており、心臓がドキドキするのを感じた。


「リリアさんから…?」


 彼は手紙を開け、ゆっくりと読み始めた。リリアの字は、美しく丁寧だった。


「アレクサンドル様、お元気ですか?私も元気です。しかし…家族の決定により、私も無理やり婚約者との結婚を強いられることになりました。どうか、私のことを気にしないでください。あなたの幸せを心から願っています」


 アレクサンドルは手紙を読み終えると、涙が止めどなく流れた。

 リリアがどうしても結婚しなければならない状況、彼女の苦しみを考えると、胸が締め付けられるようだった。


「リリアさん…」


 彼は手紙をしっかりと握りしめ、心の中でリリアの幸せを祈った。

 その思は、痛みを一時的に和らげるだけだったけれど。



 村の人々は、アレクサンドルに温かく接してくれた。

 彼は地元の人々と交流しながら、新しい仕事を始めた。農作業や家畜の世話をしながら、少しずつ生活のリズムを作り上げていった。


 ある日、村の広場でお祭りが開かれ、アレクサンドルも参加し、村の人々と共に楽しむ時間を持った。

 色とりどりの灯籠が夜空に浮かび上がり、賑やかな音楽が広がっていた。


「これが…田舎の祭りか」


 アレクサンドルは、広場の中心に立ち、楽しそうに踊る村の人々を見ていた。少しずつ心が軽くなっていくのを感じていた。


「アレクサンドルさん、お祭り楽しんでいますか?」


 一人の村人が声をかけてきた。アレクサンドルは笑顔で応じた。


「はい、思ったよりも楽しいですね」


「そうでしょう?田舎の生活は大変なことも多いけど、こういう時は皆で楽しむんです」


 村人の言葉に、アレクサンドルはうなずいた。これからの生活には、辛いこともあるだろうが、少しずつ慣れていけるだろうと感じた。



 数ヶ月が過ぎ、アレクサンドルは新しい生活に少しずつ適応していた。

 仕事に追われる日々の中で、心の中には希望の光が差し込んできていた。日々の小さな幸せを見つけることで、前に進む力を取り戻していた。


 夜になると、アレクサンドルは星空を見上げながら、心の中でリリアへの思いを馳せる。


「リリアさん、君に幸せが訪れることを祈っているよ」


 彼は夜空の星に向かって、静かに祈りを捧げた。

 星が輝く空を見上げながら、過去の痛みを乗り越え、新しい未来に向かって歩き出す決意を固めるように。


 この命。

 

 もし、この命が尽きれば、もう一度、転生してあなたに会えるのだろうか?

 もし、そんなことがあっても、ぼくはまた、あなたの手をとる。


 どうせ、一度終わった人生だった。

 一度も二度も一緒だ。


 そして、ぼくは、

 また、あの満点の星空の中に迷い込む。

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