葛藤

第19話 仲間

「あぁ。ホームシックか?」


そう、これは一種のホームシックだ。


「ははは...久しぶりにアメリカの空気を感じたら、思い出しちゃって。」


私は弦堂百合と全くの別人で、

偽りの新婚旅行中に本物の父親にあっただなんて、死んでも言えない。


「百合...。」


伴世は私を抱きしめた。


彼は私をこの上なく愛している。


でも私はもう麗華じゃない。


父を捨て、家族を捨て、本来の自分を捨てて。

彼は私に口づけをするが、その唇は犀川麗華ではなく、弦堂百合だ。


もうこの世界に、麗華を愛する人はいない。


私が捨てたから。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


日本に帰国してから、私は建前上家で静かに暮らしていた。しかし、秘密裏では大柳さんと資金集めや、不動産の管理をしていた。


「これから、何をすれば?もう結婚して、弦堂家でもある程度の存在感を得ました。」


「いいえ、まだまだやることは山積みですよ。百合さんは麗華さんに弦堂グループの主人になって欲しいとおっしゃっていましたから。」


「わ、私が?確かによく言ってましたが、それは冗談だったのでは?」


大柳さんはじいっと私の目を見つめた。


「そうですか...。」


「はい。」


百合が私に残した試練は確かに辛い。

それでも、彼女が与えてくれたこの華やかな日々は私にとって夢のような生活だった。



突然玄関のドアが開いた。


伴世が帰ってきたのだ。


広いリビングに入ってきた伴世は大柳さんを見て顔をしかめた。


「おかえり。早かったのね。」


「ああ、会議が急遽延期になって。

それより、なんで大柳がうちに?」


「百合さんの資産処理を..」


「いや、お前には聞いてない。

 どういうことだ、百合?」


大柳さんは身を引いた。


「ねぇ何か勘違いしてない?

ただアメリカの銀行の資産処理を手伝ってもらってただけ。」


伴世は冷静な表情で大柳さんの肩に手を置いた。


「伴世様...?」


「歯食いしばれ。」


次の瞬間、伴世は大柳さんのみぞおちに強烈な膝蹴りをくらわした。


「きゃあっ!」


1発にとどまらず、彼は何発も膝蹴りをした。

大柳さんの顔は赤くなっていた。


「お願いもうやめて!ねぇ、伴世さん!」


伴世はようやく足を止めた。

大柳さんはふらつきながらも耐えていた。


「はぁ。生意気なんだよ、

百合が世間知らずなのを良いことに。

地位を弁えろ。おっさん。」


私は恐怖で震えてしまった。


伴世の部下がやってきた。


「下野総会の会長からお電話です。」


「ああ、すぐ行く。」


そう言って伴世は部屋を後にした。


大柳さんはフラフラしながらも

書類を片付けていた。


「大柳さん!ダメです。安静にしていなきゃ。」


「いいえ、大丈夫です。」


「だ、大丈夫じゃないでしょう?

ごめんなさい、夫は何か勘違いしているようで。」



「勘違いじゃありません。」


「え?」


「私は麗華さんに好意を持ってますから。」












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雪の日 杏菜 @queen1anna

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ