盗まれたプラネタリウム
藤泉都理
盗まれたプラネタリウム
意気地なしの僕は、面と向かって好きな人に告白できない。
でもこのまま告白しないままなんて嫌だ。
もう来年は中学生だ。
好きな人とは別々の学校に行くことになっている。
今、どうにかしないともう、
だから、夏休みの宿題の自由工作で提出した、手作りプラネタリウムを使って、僕は告白することにした。のに、
先生から返してもらって、学校から家に持ち帰った手作りプラネタリウムに、或る細工をしようと部屋に置いていたのに、いつの間にかどこかに行っちゃったんだ。
「おお。可哀想に。それは手作りプラネタリウム泥棒の仕業だな」
「て、手作りプラネタリウム泥棒なんて。いるの?」
お父さんもお母さんも仕事でいなかったので、僕が小学校から帰ってきてから少しして高校から帰って来た兄ちゃんに玄関で泣きつくと、兄ちゃんは真面目な顔をして言った。
「ああ。俺の高校ではその噂で持ち切りだが。おまえの小学校では噂は流れてないのか?」
「うん。そんなの一回も聞いたことない」
「そうかそうか。おまえたちを怖がらせまいと先生たちが情報を遮断しているんだな」
「え?じゃ。じゃあ。僕の手作りプラネタリウムは、本当に。手作りプラネタリウム泥棒が盗んだの?じゃあ、警察に電話しなくっちゃ」
「もう兄ちゃんがスマホで知らせておいた。警察アプリでちょちょいとちょいとな」
スマホを使いながらだったからもしかしたら真剣に話を聞いていないと思ったら、流石は兄ちゃんだ。頼りになる。
「でも。残念ながら、この手作りプラネタリウム泥棒に盗まれた手作りプラネタリウムは百パーセント戻ってこないんだ。さっき返信してもらえた時に教えてもらった」
「そ。そう。なんだ」
「一生懸命作った手作りプラネタリウムが返ってこなくても、警察の人を恨むんじゃないぞ。それと、この手作りプラネタリウム泥棒のことは、誰にも言っちゃいけないぞ。大人だけが知っている真実だからだ」
「う。うん。わかった。言わない」
「よし。じゃあ、リビングで一緒に遊ぶか?一人だと怖いだろ?」
「警察の人、来ないの?」
「ああ。今は何でもテクノロジーかつ時間短縮の時代だからな。おまえは気付かなかったかもしれないが、もう、ちっちゃなドローンが家に入って、あちこち撮影して帰って行ったぞ。これから鑑識に入るんだろう。結果はまだ先だ」
「ふええ。警察ってすごいねえ」
「ああ。すごいからな。でも、そのすごい警察でも見つけることができないのが、手作りプラネタリウム泥棒だ。まったく。どんなやつなんだか」
「手作りプラネタリウム泥棒はどうして手作りプラネタリウムを盗むんだろうね?寂しいからいっぱい集めて、ずっと眺めているのかな?」
「さあな。犯罪者の考えていることは、俺にはよくわからないな」
さあ遊ぶぞ。
手洗いうがいをしに行った兄ちゃんについて行きながら、僕は告白をどうしようかと思った。
(やっぱり、面と向かって言えって、こと、なのかな?)
(すまない。弟よ。ブラコンな兄をゆるしてくれ。まだ。おまえが誰かと付き合うなんて。とてもとても。ブラコンな兄には耐えられない。も、もう少しだけ。せめて、小学生の間だけは、誰とも付き合わないでくれ。中学生になったら、俺が必ず、おまえの恋を。恋を。恋を。成就。させる。から)
この日はずっと兄である俺から離れない弟にとてつもない罪悪感を抱きつつ、弟と一緒に遊べるとてつもない幸福感をただただ噛みしめていた。
のだが。
「に。兄ちゃ。兄ちゃんが。手作りプラネタリウム泥棒だったの?」
「あ」
その日の夜のことであった。
幸福感に浸りすぎて油断していたといってもいい。
一緒に寝ていいかと自分の部屋を訪ねて来た弟に、うかつにも弟の手作りプラネタリウムを見つけられてしまった兄の運命は。
土下座をして、手作りプラネタリウム泥棒なんていない、けれど告白を阻止したかったとは言わず、ただおまえの手作りプラネタリウムがほしかったと嘘をついて兄の運命や如何に。
「ふふ。綺麗だなあ。とっても。綺麗だ」
自分の部屋にいても聞こえてくる弟と、弟と付き合うことになったにっくき少年のはしゃぐ声を聞きたくないと耳を塞いだ兄は、優しいやさしい弟がくれた手作りプラネタリウムを一人で、満喫するのであった。
「ふふふふふふ」
(2024.9.20)
盗まれたプラネタリウム 藤泉都理 @fujitori
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